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LastupDate:2005/7/13
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第45回 「黒車」:激しい競争が生み出す弊害

(2005年7月13日執筆)

     7月10日から北京に行く。空港と市内の往復で、実は些か不快なことがある。それはタクシー運転手との交渉である。多くの方が経験のあることと思うが、(1)白タクによる客引き、(2)タクシー乗り場に並んで乗車したタクシーでもメーターを使用しようとせずに価格交渉を始めるもの、そうでなくとも(3)遠回りしてメーターを稼ぐものが多いことである。
   1980年頃には空港のタラップの下までタクシーが入ってきて客引きをしていたので、この頃に比べれば随分と良くはなったのではあるが。
   中国のタクシー業界も政府の規制の時代を経て、市場メカニズムによる自由競争の時代へと変わりつつある(タクシー業界の政府の規制と市場メカニズムの問題については、王軍「政府管制与市場自発量的抗衡―北京出租汽車業個案分析」 政法大学民商経済法律網政法大学民商経済法学院が詳しい。)。
   1996年以前は、政府による規制が大きかった時代である。業界参入も企業にのみしか認められない。それでも経済発展および自動車産業の発展によって、参入企業も増え、1993年には5万人の運転手を抱え、年間上納税が7,000万元を超えるまでになった。
   1996年以降は、無規制の時代である。1996年当時の多くのタクシー会社は、運転手と請負制の契約を締結し、毎月約1,500元の上納でタクシー車両(「夏利」の場合)を運転手にリースしていた。
   現在でもこの方式に変化はない。ただ、請負上納額は4,500〜4,800元(同前)と高くなっているが。2000年には石油価格の高騰から、ガソリン代も運転手の売上げから自分で負担するようになっている。
   タクシー業界の参入規制の緩和、タクシー会社間の競争の激化、会社と運転手との間の請負制の導入は、運転手を落ちつかなくさせている。少しでも多くの売上げを上げなければならないと。また、運転手を落ちつかなくさせている原因には、所得格差の拡大もあるだろうか。持てるものと持てざるものの差が開いている。少しでも多く稼いで、請負制運転手から資金を蓄え、起業したいというものもいるだろう。
   こうしたことから「黒車」が蔓延っている。「黒車」とは、日本で言えば白タクだが、実際にはもう少し概念が広い。タクシーとして登録されていないが、不法に個人客を取るもののほかに、運転手が無資格の友人にタクシー車両を貸し出して営業させているものなどがある。1999年の見込み数字では適法なタクシーが6.5万台のところ、「黒車」は約2万台であろうという(前掲・王)。異常な多さといわざるを得ない。
   白タクや不法な営業行為は、日本でもなくはないが(最近、筆者の勤務するA市で勤務先から空港までタクシーに乗ったところ、通常は必ず2,580円のところメーターが5,300円を示していた。「いつもは2,700円程度だ」と述べたところ、「じゃあ、それでいいです」との返事。同じくA市の観光客を主たる対象とした魚市場で毛ガニを購入し、宅急便で自宅に送ったところ、その場で北海道産を3匹選んだにもかかわらず、送られてきたものにはロシア産が1匹混ざっていた。甲羅の色が違い明らかに分かるので、電話し苦情を行ったところ、1匹分の代金が返却された。通常の観光客は泣き寝入り、諦めがほとんどなのだろうし、そもそも観光客自身も観光客相手のかかる市場ではこんなものと思っているところ、一回限りの観光客と見れば、このような詐欺行為を平気でするのもA市に限ることではなさそうだが。)、それでも中国では日常茶飯事。市場競争の影の部分といえようか。
   以前のコラム「中国の伝統文化“コネ”と企業統治」(5月11日)でエイミー・チュア(Amy Chua)の『富の独裁者(World on Fire)―驕る経済の覇者:飢える民族の反乱』(久保恵美子訳、光文社、2003年)を紹介し、市場経済化がもたらすリスクについて若干言及した(紙幅の都合上、同語反復しないので、関心があれば同コラムを参照いただきたい。)。「黒車」が蔓延る原因にも同様のことがいえる。




次号の更新は7月27日(水)ころを予定しています。

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