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LastupDate:2005/10/26
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第52回 裁判による紛争処理を避ける
――米中間の調停の試み      

(2005年10月26日執筆)

   2004年に「米中調停センター」(The US-China Business Mediation Center)が設置された。これは、中国国際貿易促進協会と米国のInternational Institute for Conflict Prevention and Resolution(本部:ニューヨーク)の両機関により設置されたものである(http://www.cpradr.org)。    米国企業が、米中企業間の紛争を中国における裁判により解決するよりも、調停によるほうが安心するということから、両機関で協議され、設置合意に至ったものである。当事者企業間の紛争を第三者機関である米中調停センターが調停をし、解決を図ろうとする。
   中国は生産的関係を維持することを重視しようとする文化が根付いており、この限りにおいては調停をそもそも好む傾向がある。一方、米国のような個人主義的である国・企業は、契約や紛争処理に際しては法によるルールどおりに行われること、法の強制力に信頼をおこうとする。
   しかし、このような思考が企業紛争の処理という点に関しては、欧米にも生じつつある。国連商取引委員会(UNCITRAL)は、1980年にUNCITRAL調停規則を採択した。それによると、調停人は、“紛争を友好的に解決しようと試みるに当たり”、独立した公正な立場において、客観性、公平及び正義の原則を指針とし、当事者の権利義務、取引慣行及び紛争の諸事情を考慮に入れつつ、紛争の友好的解決を求める当事者を援助するとされている。
   多喜は次のように述べる。「第三者が当事者を仲介し折り合わせて当事者の自治的解決を助成する制度が調停なので、……調停の本来の意義が友好関係を維持しつつ紛争を解決するということにあるとすれば、欧米諸国においても“長期国際取引に関して国際商事調停が重要な役割を演ずることが期待されうる”のではなかろうか。」(多喜寛『国際仲裁と国際取引法』中央大学出版部、1999年、5-6頁)。
   中国においては、従来から二国間の仲裁機関で協力協定を締結し、共同で調停を実施しようという動きがある。すでに、フランス工業所有権局、イタリア仲裁協会、ハンブルグ調停センター、韓国商業会議所、カナダ・ビジネス委員会、ニューヨーク調停センター、ロンドン国際仲裁裁判所などと連合調停センターを設置している。
   日中企業間には国際取引に関して長期的な友好的取引関係の維持を考慮し、裁判や仲裁よりも調停を望ましいとする考えがある。しかし、日中間で紛争を調停により解決しようという動きはあまり見られない。日本自動車工業会と中国汽車工業協会との間で、2004年にコピー二輪車問題を扱う紛争解決機関「日中二輪車知的財産権紛争調停組織」が設立されたが、極めて限定的な協力関係である。日中の法文化・意識が類似している場面が少なくないところ、もっと紛争処理における協働があってもよいのではないかと考えるが。
   アメリカ仲裁協会のPresident & CEOであるWilliam K. Slate IIは、国際商事紛争処理を効果的に解決するために、仲裁人や代理人が国による文化や習慣の違いを理解しておくことが大変に重要であるという。日中間の紛争処理が円滑に進むために、日中協働で国による文化や習慣の違いを理解した仲裁人や代理人の育成が望まれる。


次号の更新は11月9日(水)ころを予定しています。

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