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LastupDate:2005/12/14
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第55回 地方農村における民主意識の芽生えとこれを拒む勢力

(2005年12月14日執筆)

   2005年12月6日、広東省汕尾市東洲村で地元警察による農民デモ弾圧で、死者20名、行方不明50名という天安門事件(1989年6月4日)以後最大の事件が発生した(ニューヨークタイムズ紙 http://www.nytimes.com/2005/12/10/international/asia/10china.html)。
   同村に建設された風力発電所の立ち退き補償が少ないと農民がデモ集会を開いていたところ、夜7時に警察が催涙ガスをデモ隊に発射し、その後8時には実弾による発砲が始まったという。
   中国政府によると2004年の1年間に東洲村のような事件が全国で7万4000件発生している。これらは環境、財産権、土地使用権にかかわるものが多い。中央政府は、農村の社会不安を掌握したいようだが、都市と農村の所得格差の拡大、地方政府幹部の腐敗により、うまく対処できていないのが現状である。
   Jerome Alan Cohen(ニューヨーク大学ロースクール教授)は、「20年前、中国の友人は“政府高官は美しい言葉を奏でるが、地方政府幹部はやりたいことをやる”と述べていた。今、この状況に変化があるといえるだろうか?」と疑問を呈している(Jerome Alan Cohen China Trips Up Its Barefoot Lawyers, Far Eastern Economic Review, November 2005, at17-20)。
   Cohenが、実際に次のような事件に接し、苦慮しているからである。
   山東省の貧しい農村Yinan(沂南県)に目の不自由な社会活動家“はだしの弁護士”Chen Guangchengがいる。彼は、地方政府不法な要求に抵抗する農村活動家として知られ、2002年にニューズ・ウィーク誌は8ページを割いて彼の活動を紹介している。Chenは、Cohenの友人でもある。
   このChenが、今、大変な困難、迫害に苦しんでいる。Chenは、彼が住む村の数百人の人々が2005年3月から、人口抑制の名の下に中絶および避妊手術の強制という虐待を受け、これに抵抗する者が不法に逮捕されていることから、彼ら犠牲者を助け、法院に地方政府を相手取った訴えを提起し、また、国内外のジャーナリストを通じて、Linyi(臨沂)市政府の非道を訴えている。
   これを受けてLinyi政府が恐ろしい対抗をしてきた。8月11日にChenの家に市・村の幹部やその取り巻き数百人がいっせいに押しかけ、彼の自宅電話の回線を切り、携帯電話を取り上げ、目の不自由な人用のパソコンを没収し、彼を自宅に軟禁したのである。Chenおよび彼の妻は、脱走を試み、Chen自身は何とか北京まで行き、彼の支援者である北京の弁護士、学者、ジャーナリストに訴えた。しかし、その直後に山東省警察が北京で彼を拉致し、再び彼は自宅に軟禁された。
   彼の支援者である弁護士および教授が、山東省に行こうとしたところ、北京市司法当局から、弁護士は何ら法的根拠がないまま1年間の資格停止処分を受け、教授は職を取り上げると脅かされたという。
   Chenを解放する望みは、中央政府である国家生育計画委員会の遅ればせながらの調査開始によりもたらされつつある。国家生育計画委員会は、Linyi市の出産計画キャンペーンの中で虐待が行われていることを明らかにし、ある幹部は解任され、犯罪として検挙されたことを報じた。しかし、それでもChenのことについては、まだ何も触れられていない。
   Cohenは、この事件に対して次のように述べている。
   「公安部は、なぜ中国の評価を落とすようなこの不名誉な事件を終わりにしないのか。もしかしたら、中央政府としてはこの行過ぎた出産抑制キャンペーンに対する反対運動が各地で精鋭化することを心配しているのか? 中国は、中央の公安部が地方政府をコントロールする能力に欠けていると思われるからなのか? あまり人目を引かない真実をインターネットや外国メディアによって白日の下に曝されることのないように押しつぶしたいからなのか?」
   Cohenの設問に対して、どのように解答することができるのだろうか。Yes/Noで回答するなら、いずれもYesといえそうだ。このように中央政府の政策に対する面子、中央政府の権力基盤(地方との力関係)の弱体化、地方党政府の腐敗・民主に対する意識の低さという問題が大きくなってきている。


次号の更新は12月28日(水)ころを予定しています。

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