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LastupDate:2005/11/9
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第53回 企業統治(公司治理)の現状

(2005年11月9日執筆)

   以前のコラム(2005年6月8日)で「会社の不祥事と企業統治―独立取締役の必要性」について述べたことがあるが、中国企業における不祥事が相変わらず多いし、また増えている。
   証券取引所への上場企業を監督する証券監督管理委員会によると、1992年から2005年6月末までの間に536社、1,066人に対して行政処罰を科し、このうち上場会社の管理職が497人、証券会社の管理職が98人、先物取引公司の管理職が32人などとなっている。行政処罰の内容は、情報漏洩が110件、市場操作行為が19件、インサイダー取引が7件、先物取引違法行為が44件、その他証券違法行為が198件、司法機関に移送された事案が86件となっている(http://www.iolaw.org.cn/shownews.asp?id=13299)
   今年(2005年)に入ってからも7月15日までの間に行政処罰を命じた件数が20件にのぼる。このうち10社が証券会社および先物取引会社に対するもので、大鵬証券、上海万向期貨(先物取引)公司、南方証券、上海豊華(集団)株式有限公司などが含まれている。
   中国政府は不祥事が相次ぐ上場企業の体質改善を目指す通達を公表した(日本経済新聞 2005年11月3日)。中国証券監督管理委員会が「上場企業の体質改善に関する意見」をまとめ、国務院が地方政府に通達したのがこれである。この通達によると、経営の執行と監督を分離する欧米流の体制を奨励するほか、経営危機の企業は地方政府に救済させるという。また、株主による企業の資金流用を禁じ、流用した資金は来年末までに全額返済するよう命じている。さらに、企業統治を近代化するため(1)監査役制度の活用、(2)投資家向け広報の充実、(3)ストックオプションの導入などによる経営者や社員の積極化――などを提起している。
   企業不祥事はなぜ起こるのだろうか。
   急速に大きくなっている市場経済の波の中で、システムが未完成であるといえる。先進資本主義国と同様の企業類型が経営されつつあるが、外観上は同じでも内部メカニズムが構築されていない面がある。国有独資企業や株式有限公司ではあっても支配株主が国である場合もなお少なくなく、このような企業では管理職が政府部門の職員を兼職していることもあり、政企分離(政府と企業の分離)がなされていないことがある。このような管理職は、官本位主義であり、株主や債権者のための業務を行おうとするよりも、政府のための業務を行おうとする。また、公司法(会社法。2005年10月27日に大幅な改正が行われた。)があるとはいっても、なお管理職の地位や職責が不明確であるとの指摘がある。
   私営企業も少なくないが、この企業家は起業家であり、彼らの商才、先見の明は認められるが、資産の蓄えがたまたまあったから事業を起こすことができたに過ぎないとの評価もあり、多くの私営企業家の教育水準は低く、自己の利益のみを追求しがちであるといわれる。これら企業は、オーナー企業であり、経営者の暴走を止めるメカニズムがない。市場経済、証券市場も形成されているが、企業家の評価システムがあるわけではなく、一般投資家(市民)が企業家の資質を判断することはできないのが現状である。
   今後、企業不祥事を予防するための法整備、公司法の周知徹底や企業統治のあり方に関する所轄政府部門の法令、業界基準や最高人民法院による司法解釈の整備が重要になりそうだ。外資系企業の内部統制メカニズム、企業統治のあり方にも影響がある。注目しておかなければならない点である。


次号の更新は11月24日(木)ころを予定しています。

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