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(2007年11月14日)
中国政府は、企業と労働者間の雇用契約に際して、集団契約(中国語は、「集体合同」である。これは日本の労働協約に相当する。)の締結を強く推奨し始めている。中国進出企業は、労働者と労働契約をする場合において、従来はほとんどの企業において個別労働契約を締結するだけであったと考えるが、今後は全労働者との間の集団契約の締結を重視する必要がある。 集団労働契約は、労働組合の代表従業員と企業との間で締結される労働条件を主たる内容とする書面による合意である。労働契約法は、特段に5章1節(51〜56条)において集団契約について規定している。「集団契約規定」が2004年1月20日に公布され、2004年5月1日から施行されているが、実際に集団契約を締結している企業は少ないので、改めてその重要性を認識しようとするものである。 2005年時点で集団契約を締結しているのはほとんどが国有企業であり、外資企業では8%しか集団契約を締結していない(人民日報 2007年11月5日)。 集団契約のうち、当面において、とりわけ賃金に関する集団協議が重要視され始めている。賃金についても集団で協議することについては、「賃金集団協議試行弁法」(2000年11月8日公布、同日施行)があるが、これも実際に行われていることは極めて少なかった。労働保障部、建設部、公安部、全国総工会によって「全国農民工賃金支払状況に関する専門的調査」2007年11月1日から2008年1月31日までの間実施される(経済参考報 2007年11月1日)。これは、企業に対して一人では一番の弱者であるといえる農民工に対する不当な低賃金基準、賃金支払遅滞、ピンはねなどの問題があることから、実態を調査し、取り締まりをしようとするものである。このような現状もあり、今、賃金を集団で協議することについて各地で政府部門の主導による活動が始まっている。 国家労働・社会保障部は先に、全国規模で5年以内に各企業に対し「賃金集団協議制度」を実施する方針を明らかにしており、全国総工会もこれに賛同していたという(潟`ャイナワーク専務取締役・遠藤誠氏)。 賃金にかかわる労使交渉では、どうしても労働者が弱者である。天津市総工会(労働組合)の調査では、72%の労働者が集団協議により正当な権利確保ができるようになったと感じているという(人民日報 2007年11月5日)。 広東省では、企業と工会が協議を行い賃金について取り決める制度という「賃金集団協議制度」全面的に推し進める方針であるという。この賃金集団協議制度とは、工会または投票などにより決められた従業員の代表が、企業側と公平な協議を行い、賃金の分配制度や形式、金額、支払い方法、調整規則などを取り決める制度である(南方日報 2007年10月24日)。 広州市総工会が先ごろ、広州大学広州発展研究院に委託して行った調査によると、「賃金集団協議制度」を既に導入した広州内の企業では、導入していない企業に比べて賃金が10〜15%高くなっていた。企業の利益も20%の増加がみられたものの、同制度の導入で今後労働コストの上昇する可能性もある。また同調査では、制度が未熟であることなどから、協議の不平等や協議の実効が維持されないなどの問題がみられたといい、積極的に大学の研究機関や弁護士・法律事務所などの第三者を協議に参加させることで、制度の公平性を保つことが必要と指摘している。 労働者の権利保護のために賃金集団協議制度を普及させ始めていると考えられるが、今後はさらに企業内で集団契約を締結するようにとの指導が始まるものと考える。中国進出外資企業は、集団契約のあり方を検討する必要がある。
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