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LastupDate:2007/9/26
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第98回 労働紛争調停仲裁法の制定に向けて
―労働仲裁か裁判かの選択性になる可能性

(2007年9月26日)

  2007年8月26日、第10期全国人民代表大会常務委員会第29回会議において「労働紛争調停仲裁法」(中国語は、「労働争議調解仲裁法」)の草案が正式に上呈され、初めての審議が行われた(「労働紛争調停仲裁法」(草案=征求意見稿)は、現在、全人代によってパブリック・コメントが求められている段階である。ただし、全国人民代表大会のホームページ上においては、この「征求意見稿」は公表されていない。そこで筆者は、草案の全条文について深圳企業労働維権網http://www.sz12333.com/Article_Show.asp?ArticleID=7778によった。)。
  この労働紛争調停仲裁法は、すでに制定されている労働契約法、就業促進法とともに中国における人事労務管理のあり方に大きな変更をもたらすものである。労使紛争処理に関しては、現在、「企業労働紛争処理条例」があるが、これに変わるものとして労働紛争調停仲裁法が起草されている。
  従来の労使紛争処理に関して、次のような批判があった。すなわち、(1)解決までの時間が長くかかり、(2)効率が悪く、(3)コストが嵩むという3大弊害が指摘されている(工人日報 2007年9月17日、http://jjckb.xinhuanet.com/xwjc/2007-09/17/content_66647.htm)。
  ある調査では、労使紛争が発生すると、まず(1)企業内調停を行い、これが不調の場合に、(2)仲裁を申立、さらに仲裁判断に不服である場合に、(3)人民法院に訴えが提起でき、人民法院における一審の裁定に不服であれば、上級法院に上訴するという過程をすべて経なければならず(これを「一調一裁両審」という)、これに費やされる日数は1年を有に超えるという。業務上の負傷案件の場合には、この認定手続だけで2年4ヶ月から3年11ヶ月がかかり、その後に上述の労使紛争処理手続が始まる。そうであると6〜7年も解決にかかる場合があるという。
  最近の労使紛争については、農民工にかかわる問題が多い。「北京市農民工法律援助工作站」の統計によると、同機関が法律支援をした農民工2,196人のうち、仲裁手続を行ったのは410人であり、仲裁で最終的に解決できたのは54人しかいなかったという。最高人民法院の統計では2006年に全国の法院が審理した労使紛争事件は約18万件、仲裁判断に不服で法院に提訴された事件、すなわち「仲裁後起訴率」は40%にものぼっているという。
  このような現状から、労働者の保護を強化するために「一調一裁両審」をやめ、労働者が仲裁か裁判かを自由に選択できるようにしてはどうか(「裁審分離」説)という意見が提出されている。こうした意見を反映して、すでに労働契約法77条では、「労働者は、適法な権益が侵害された場合において、関係部門に対して法により処理するよう要求するか、または法により仲裁を申し立てるか、もしくは訴訟を提起する権利を有する。」と定められている。
  労働紛争調停仲裁法(草案)の審議においては、まだ上記の意見が多数説にはなっていない。草案では、現時点においては原則として「一調一裁両審」が維持されている。それでも業務上負傷・医療費に関連して発生した労働紛争の場合においては、「一裁終局」方式が草案の規定となっている。
  何れにせよ労働紛争調停仲裁法が制定、施行されるときには、企業は労使紛争処理の仕方について検討、準備をしておく必要がある。場合によっては、社内調停という手続が無効になる事案も生じる可能性があるからである。


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