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LastupDate:2007/7/11
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第93回 訴訟社会:訴権の濫用

(2007年7月11日)

   中国で訴権の濫用ということが問題になっている。訴権の濫用とは、悪意をもって裁判所に訴えを提起し、または検察に告発することをいう(張新宝「悪意訴訟的侵権責任」中国民商法律網)。ここで悪意とは、紛争当事者の一方が、一般には特段の訴えの利益も、また、さしたる証拠もないと思われるようなことでも、相手方に故意に危害を加えることを目的しているということである。
   このことが問題であるというのは、上記概念の訴権の濫用が最近の中国で多発し、このことが国民経済の負担にもなっているからである。国民経済の負担になっているというのは、法院が非常に多くの事件を受理しているところ、さらに訴訟が増加し、人民法院の人員・予算不足を起こし、国民の税負担が増しているということである。
   例えば、以下のような訴権の濫用とも考えられる事件がある。
   仏ダノンと娃哈哈集団との間の紛争(本コラム第92回「仏ダノンv. 娃哈哈集団の紛争処理法の有効性」参照)がエスカレートし、泥沼化の様相を呈してきている。
   娃哈哈集団の宋慶後董事長は、2007年7月3日にダノン・娃哈哈合弁会社の董事(取締役)に就任しているファベール・アジア太平洋担当上級副社長ほか3人を提訴する方針を明らかにした(日本経済新聞 2007年7月5日)。仏ダノン側の董事3人が、合弁会社と競合関係にある他の食品会社の董事を兼務していることは会社法(公司法)で規制している董事の競業禁止に違反しているというのが理由である。
   この訴えは、仏ダノンと娃哈哈集団との間の紛争がエスカレートする中で行われたものである。当事者間にトラブルが発生していないときには問題とされていなかったものが、訴訟合戦の中で発生した新たな訴えである。果たして、実質的な訴えの利益があるのか否か、一般には判然としない。
   訴権の濫用ということがとりわけ注視され始めたのは、「深圳“富士康”事件」からである。
   2006年6月に「第一財経報」が、深圳の鴻富錦精密工業有限公司(同社は、台湾の富士康科技集団の全額出資の子会社)で女子労働者に過酷な残業が課されているという記事を掲載した。そこで、同公司が「第一財経報」の2人の記者を相手取って、深圳市中級人民法院に名誉侵害の訴えを提起し、3000万元の損害賠償を求め、かつこのために法院に2人の記者の個人財産(銀行預金、株券など)の差押さえ、凍結を要求した。事件は、現在も係争中だが、一時は2人の記者の個人財産の差押さえ、凍結が法院により裁定されている(「記者報道富士康案遭三千万元索賠」)。
   このような訴え(3000万元の損害賠償額や財産の差押さえなど)に法的根拠があるのか否か、訴訟当事者(被告)も2人の記者が適当であるのか否かなど疑義があり、訴権の濫用の可能性があるといわれる(前掲張)。
   中国進出外資企業は、訴訟社会中国への備えを必要以上にしなければならず、経営管理上のリスク、負担が増している。


次回は7月25日(水)の更新予定です。

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