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(2007年4月25日)
重慶“最牛釘子戸”事件は、土地収用補償費を巡る事件であったが、かかる事件には法院調停における「背靠背」による解決法が有効であるという考えが法院にある(何鳴『民事訴訟調停技巧与実例評析』人民法院出版社、2005年、3-6頁)。 “背靠背”とは、“@背中と背中を合わせることで、A本人には秘密にする。当事者のいないところでする。”という意味である(『中日辞典』講談社、2002年、65頁)。 “背靠背”による調停方式は、非公開、不透明であり、調停双方当事者が互いに主張しあうことをさせずに、裁判官が調停を進め、調停案を出すので、当事者を騙す様なものではないかと嫌われ、調停の自由意思の原則に反しているという批判をされていたこともあった。 しかし、この批判に対して、法院はかかる批判は“背靠背”法を一面的に理解するものであると反論して、以下のように述べる。 「確かに“背靠背”の調停過程において裁判官は双方の当事者を互いに隔離して、それぞれを説得するという方式であるが、紛争当事者双方は、感情の対立があるのであるから、ときには相手との言い合いでこの感情がなおさら刺激されると、衝突は一層エスカレートする。もし相隣関係の紛争なら調停の際に一方当事者がもう一方に対して「人でなし」とでも言えば、この揚言は激怒を増すだけでなく、両家の相隣する問題を全く解決に導くことをできなくしてしまう。 そこで、このような場合に裁判官は、当事者を各々に隔離して、別々の場所で双方を接触させることなく、互い相手を悪く言うことで刺激しあうのを避けることができる。このとき裁判官は、各々を説得して双方の意見の違いを縮め、感情の高まりがピークを越え、当事者が落ち着いてきたところで、双方に和解するように促すことができる。」(前掲、何鳴5頁) さて、企業内における労使紛争はどうであろうか。 「企業労働争議処理条例」の規定により、企業は、企業内に労働争議調停委員会を設置することができる。この調停委員会は、(1)従業員代表、企業代表および労働組合代表により構成され、(2)その構成人数は、従業員代表大会と企業経営側が協議して決めることができるが、(3)ただし、企業代表は調停委員会構成メンバーの3分の1を超えてはならないというものである(7条)。 外資企業において労働争議調停委員会を利用している企業は少ない。しかし、左祥gは、「調停委員会が設置されている企業は、労働争議が発生しても70%半ばまでは調停が成功している。」(左祥g『用人単位労働法操作実務』法律出版社、2006年、342頁)という。ここに労働争議調停委員会の効用はありそうである。 矛盾対立を回避するための企業、労働組合、従業員の協調メカニズムを確立し、争議を未然に防止することが肝要で、このためにも調停委員会を積極的に設置し、単に労働争議発生時に調停を行うだけでなく、様々な問題について協議できる仕組みや雰囲気を作るのがいいといえる。上海フォルクスワーゲンは、社内裁判制度という類似の制度を設け、運用して成功しているという。 この労働調停方式は、法院における「背靠背」調停法と似ているところがある。労使双方により構成される調停委員会は、紛争当事者間のものであるが、労使調停委員会という第三者的な理性的組織を設置することで、紛争がエスカレートしないようにする機能がありそうである。 さて、翻って企業内のマネジメントはどうであろうか。人事労務管理をうまく処理するには、明確な基準を定め、透明度を高めることで、トラブル・紛争が生じないような予防システムを形成しておくことが不可欠である。
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