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(2007年4月11日)
2007年4月に重慶市の再開発計画に伴う当該地区からの立退き要求に対して、財産権を楯にこれを拒否し続けていた住民が、ついに国有デベロッパー会社と立退き条件で合意に達した。周辺住民の皆が立退きをしていたところ、一世帯の住民が4年間にわたって最後まで抵抗していた。“最牛釘子戸”事件として知られる。 このような事件は、実は全国で多く見られる。深圳版“最牛釘子戸”事件を紹介し、この事件の背景を検討することで、中国経済に内在する問題について考える。 重慶市における事件が和解により解決した日と前後して、深圳市では市国土局による裁定書が出された。この裁定書は、立退きを拒否していた住民に20日以内に立退きを命じるというものであった。 深圳市が金融区を開発するに当たって、当該地区の386世帯の住民が立退き・移転を承諾したが、張蓮好の世帯のみが立退きを拒否していた。既に立退いた住民は、何れも6500元/uの移転補償費で合意していたが、張はこの条件では不服であるとしていたのだ。 立退きを拒否していたのは、張のチャイニーズ・ドリームへの思い入れもあるだろうか。張は、17歳のときに広州に出てきて、農村建設にかかわってきた。1969年に結婚し、1977年5月に国の政策に基づいて自宅建設が認められた。そして、ついに10年前に6階建て800uの住宅を建てた。この苦労があったせいか、張は1万6,000元/u以上の移転補償費を要求していた。 “最牛釘子戸”事件は、何故起こるのか。 第一に、(1)中国の急速な都市化、時には土地の乱開発がある。各地で都市化、工業開発区の建設のために農地を潰し、農民を強制立退きさせているという事実があることは周知の通りである。第二に、(2)中国人の権利意識の高まりがある。農民も地方政府の開発計画のためなら、なにが何でも我慢しなければならないという意識もなくなってきた。自らの権利が侵害されるときには、集団で立ち上がるということもある。第三に、(3)中国の経済制度の不備、すなわち路線価格などの明確な基準がないという問題がある。移転補償費の基準は、全国で統一的なものはない。日本のように土地についての路線価格や相続税価格が定められていない。そもそも国有資産であるところ、有償で売買することはなく、土地使用権という概念を考え出したものの、これは無から有を生み出した魔法である。従って、全国規模で路線価格を定めるというようなシステムが形成されていない。第四に、(4)事件の解決法・制度の不備ということがある。 重慶市のケースでは、デベロッパーが最後の住民に100万元の補償をすることで合意に至った。先に立退いた世帯には10万元程度であったという。ごね得が生じるとすれば如何か。深圳市では、国土局の裁定により強制立退きとなる。このような対応の違いが明らかになれば、混乱が生じ、不公平感を招くことにもなる。 さて、翻って企業内のマネジメントはどうであろうか。人事労務管理をうまく処理するには、明確な基準を定め、透明度を高めることで、トラブル・紛争が生じないような予防システムを形成しておくことが不可欠である。
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