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(2007年1月24日)
和諧社会を目指す中国であるが、ビジネストラブルを含めてさまざまな紛争が生じたときに、これを如何に和諧(調和)させていくのかについては、中国政府の思惑とは別に、社会意識において実際上は逆行しているように思われることがある。 すなわち紛争解決に関して、何れも筆者の造語であるが、従来の自主交渉妥結型から先鋭援助要請型へと転換していると思われることである。 自主交渉妥結型とは、トラブルが生じたときに当事者間の自主的交渉を通じて、または中立的第三者が当事者の間に立って矛盾の激化を避け、直接当事者だけでなく、周囲の関係も配慮しながら解決策を模索する紛争解決法をいう(高見澤は、『現代中国の紛争と法』において、中国で紛争が生じたときには、少なくとも建前上は、社会的関係の修復を目指しているので、彼の研究書においては紛争処理という用語を使用せず、解決という用語を使用している)。 これに対して、先鋭援助要請型とは、トラブルが生じたとき、メディアなどを使って、ことを外部に公にし、もって矛盾を激化させ、そして交渉相手方の些細な誤りを叩き、もってバーゲニングパワーを獲得し、交渉を有利に進めようとする方法をとろうとすることをいう。 自主交渉妥結型から先鋭援助要請型へと転換しているのではないかと思わせるケースとして、例えば、最近報じられた松下電池無錫工場における従業員によるストライキ発生事件がある(日本経済新聞 2007年1月13日)。 日本で報じられたところでは、同工場の健康診断結果が従業員に開示されなかったことが原因で、ストライキが発生したということであるが、実際にはもう少し複雑な問題がある。 そもそもは、2006年8月の健康診断の際に勤続年数の長い労働者(X)の尿から標準値以上のカドニウムが検出されたことに遡る。この健康診断の2ヵ月後に当該労働者は会計部門に配置転換になった。すべての従業員の健康診断結果が必ずしも開示されなかったところ、Xと同じ作業現場で働く労働者たちにカドニウム中毒になるのではないかという不安が走った。そして、これら労働者が辞職するという騒ぎが起こった。さらに、このことが2007年1月1日に「無錫松下電池有限公司の重金属基準値超過、労働者の健康に影響」という文章がネット上で配信され、ネットという媒体を通じて外部に広まることになったのである。 1月4日に生産が停止し、12日に再開するまで8日間のストライキとなった。このストライキの間、健康診断のやり直しを決定するなど、松下電池の適切な判断で、ストライキは収拾された(松下電池の場合、身体検査の日時の通知に誤りがあり、これが会社に対する不信感を持たせたことも原因ではないかといわれている。)。 それでも結果として、松下電池は、労働者に対する安全手当として従来2元(主にマスク代金)を支給していたところ、この事件以後は20元に増額され、うち18元が「特殊勤務手当」であるという。松下電池の身体検査結果に関する通知の仕方に不適当なところがあったにせよ、これを利用し、ことを荒立てて、手当て増額を勝ち取るためのバーゲニングパワーとしたと評価し得なくもない。
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