コラムに関する感想
お問い合わせ
LastupDate:2007/1/10
トップチャイナウォール
コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第81回 和諧社会における私権の保護
――経済格差が差別意識を助長

(2007年1月10日)

   2006年12月のクリスマス・イヴに北京で農民工(農村からの出稼ぎ労働者)を差別するような事件が起きた(中国法学網 http://www.iolaw.org.cn/shownews.asp?id=15225)。北京の建設工事現場で働く農民工が、クリスマス・イヴに近くのデパートに買い物に出かけた時に起こった。 彼は、めったにデパートに行くことはないのだが、現場近くのデパートがクリスマス・セールを行っていると聞き、作業服を黒の革ジャケットとスラックスに着替えて、友人とともにデパートに出かけた。ところが、デパートの入口で、保安係員に「きちんとした身なりでないとデパートには入れない」といわれたのである。彼は、保安係員に「服は清潔に洗ってあるし、ウィンドウショッピングではなく、実際に買い物をしたいんだ」と述べたが、保管係員は彼をとうとう店内には入らせなかった。このやり取りは多くの顧客が取り巻いて見ていた。農民工はその場を逃げるようにして帰ったが、その後食事ものどを通らず、泣いていたという。 大都市において、農民工に対する差別意識が見られる。行政窓口、社区(都市住民居住区)、銭湯などで農民工の立ち入り禁止をしているケースがしばしば見られる。農民工や農民を見下した「都市病」「貴族病」が蔓延しているようだと、この事件を伝える新聞記者はいう。 市場経済化が進展し、この中でチャンスを掴んだものが富を得ている。憲法で財産権も市民の権利として確保されるようになった。そこで経済格差が生じ、ホワイトカラーとブルーカラーの所得格差が顕著になってきている。どうも成功者が、市場経済に乗り遅れた者(これは必ずしも個人の才覚だけの問題ではなく、多分にチャンスの有無の問題でもあるのだろうが)を見下す風潮が生まれている。 北京市では、2006年1〜11月の間に農民工に対する賃金未払い事件が6873件あり、5万5482人の農民工に1億473万元の賃金未払いがあった(北京市労働保障観察機構調べ。中国労働力市場網http://www.lm.gov.cn/gb/salary/2006-12/31/content_156548.htm)。このような実態を受けて、2006年11月から2007年2月までの期間、北京市労働保障局などの関係機関は、農民工に対する賃金支払に関する実態調査を実施することになった。2006年12月に東城区の国華大廈の建設工事現場で休憩中の農民工に対して、同区労働観察調査員が、現場での聞き取り調査を実施し、同時に「農民工維権手冊」(農民工権益保護手帳)が配布される姿が見られた。 党16期6中全会は、2020年までに社会主義和諧社会を確立することを重要な任務とする決定をした。この和諧社会とは、本来的には「以人為本」=人本社会であるべきである(王利明中国人民大学法学院院長、教授。「法制日報」2006年10月19日)。和諧社会は、法に基づき権利を保障しようとする社会であるが、この民事権利には財産権だけではなく、人格権も重要な要素である。


次回は1月24日(水)の更新予定です。

※サイトの記事の無断転用等を禁じます。


© Copyright 2002-2006 OBC-China Reserved.  
"chinavi.jp" "ちゃいなび" "チャイナビ" "中国ナビ"はOBC-Chinaの商標です。