★バックナンバー一覧
(2006年10月25日)
このほど(2006年10月)、中国で初めて商業秘密侵害が刑事犯罪として認定されようとしている。 この事件は、西安重型機械研究所(X)のシニア・エンジニア(高級工程師)裴国良(Y)が、同研究所の設計図を自分のパソコンに取り込み、これを転職先である武漢中冶連鋳公司において同人の業務であるプロジェクトの設計に使用し、これがXに大きな損害をもたらしたとして、商業秘密の窃盗事件として起訴、審議されていたものである。 2006年2月に西安市中級人民法院において、Yは、商業秘密侵害罪で3年の実刑、罰金5万元の判決を言い渡された。Yは、これを不服として、陜西省高級人民法院に控訴していたが、高級人民法院も原審の審判手続の適法性、量刑を相当であるとして、Yの訴えを棄却し、原審を維持するとした(中国政法大学民商経済法律網 http://www.ccelaws.com/newsDtl.asp?7123)。 中国刑法3章は、社会主義市場経済秩序破壊に関する罪を規定し、同3節で会社、企業の管理秩序妨害罪を規定しているが、この3章3節165条に「同類営業の不法経営罪(非法経営同類営業罪)」があり、以下のとおり定めている。 「国有公司および企業の董事、経理が職務上の便宜を利用し、自己の経営または他人ための経営に在職する公司および企業と同類の営業を行い、不法な利益を取得し、この金額が厖大である者については、3年以下の懲役または勾留に処し、罰金を併科、または単科する。金額が特に膨大である場合には、3年以上7年以下の懲役に処し、罰金を併科する。」 商業秘密侵害が民事事件として、損害賠償請求をし、これが認められたケースはこれまでにも存在するが、刑事事件として認定されたのはこれが初めてである。 商業秘密の保持については、労働部の「企業従業員の流動の若干の問題に関する通知」(2004年10月18日発布)で、雇用単位と従業員が商業秘密保持を約定し、従業員が転職するときには、経済的補償を従業員に支払うことで、3年を超えない期間内で競合他社において、または自らが同様の業務を行うことを禁止する契約をすることができるとしていた。 しかし、現実には従業員、とりわけ技術者のジョブホッピングが激しく、商業秘密保持に冠する意識は希薄であり、企業は商業秘密保持リスクを大きく抱えていたといえる。刑事事件として立件され、これが認定されたということは、大きな意味がある初の判決ということになる。 それでもなお、民事でも刑事でも商業秘密侵害として認定されるためには、企業が商業秘密保持のための確実な方策を講じていることが必要である。 「深圳経済特区企業技術秘密保持条例」は、企業が商業秘密保持をしているといえるためには、以下のとおりの具体的な措置を講じていることが必要であるとしている。すなわち、該当する技術については、明確に秘密保持を明記するマークなどでこれを表示し、文書をもって定め、関係技術者などに当該文書を配布し、理解させるなどの確認をしていなければならないということである。従って、通常の管理では民事事件として損害賠償を請求するにしても不十分であるということになるだろう。この点、外資企業としては注意が必要である。
※サイトの記事の無断転用等を禁じます。