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(2006年9月13日)
中国会社法(公司法)における企業統治には、董事会、監事会および株主総会といった仕組みとしての「形」はあるが、「神」(ここでは、心とか実体ということであろうか。)がないといわれる(曹富国『少数株東保護与公司治理』社会科学文献出版社、2006年、15頁)。「神」がないとは、責任感、職業道徳がなく、汚職腐敗が蔓延り、他人の財産権を尊重する姿勢がないということなどを意味する。 最近では、上海電気集団の経営陣が資金流用、収賄、不正融資の疑いで逮捕されたことが記憶に新しい(日本経済新聞 2006年8月8日)。中国最大の汚職事件として知られる「厦門(アモイ)事件」も貿易会社である厦門遠華集団有限公司が、わいろや接待で政府や軍の幹部を抱きこみ、石油製品や自動車を密輸入し、この利益で不動産投資など不正に事業を拡大していった事件である(朝日新聞 2006年6月10日)。そこで、胡錦涛政権は、党、政府、軍の高官の腐敗や汚職の摘発、処分で大鉈を振るっている(日本経済新聞 2006年8月30日)。依然として党、政府、軍の高官の問題も関連会社を利用、癒着したりすることで私欲を満たしているのが実態であるからである。 中国企業に信用危機があるということでいえば、これは以下の幾つかの類型に分類できる(徐暁松『公司資本監督与中国公司治理』知識産権出版社、2006年、98-108頁)。 (1)会社の虚偽の財務報告、(2)関連取引を利用した会社資産の占用または移転、(3)上場会社による利益配当不履行または少額配当、(4)有限会社による債務弁済の不履行、会社登記抹消による債務逃れ、(5)大企業の高級管理職による経済犯罪、(6)株主の虚偽の出資および出資金の引出しである。 このような現象が生じるのは、会社法における企業統治のあり方になお欠陥があるからであるという(前出、曹・16頁)。具体的には、以下のような欠陥があると指摘される。 (1)大企業の株主のうち大株主は国家であるが、この国家株主の主体が一体誰(どの機関)であるのか不明確であり、権利義務が明らかではない、(2)少数株主の権利保護が薄弱である、(3)董事会には実際上において監督機能がない、(4)監事会の監督機能が不十分である、(5)証券市場の会社に対するチェック・アンド・バランスの影響が弱い。 中国の企業統治制度は、ドイツの監査役会モデルを参考にし、これを移植したものである。しかし、経済体制や資本メカニズムも現時点においては、中国には特有の株主構造、すなわち、前述したとおり、国が大株主であるという問題などがある。そこで、ドイツの監査役会モデルが中国の会社の実態として十分に機能していないといわれる(前出、曹・302頁)。 中国の新会社法は施行後まだ間もない。会社法がどのように適用され、機能するのかについては、まだ様子を見る時期であるといえる。中国企業が信用回復できるか、会社法の適用如何にかかわってくる。
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