★バックナンバー一覧
(2006年6月21日)
中国で企業倫理という言葉をしばしば目にするようになった。「企業倫理学」や「企業人力資源管理中的倫理観」(企業の人材育成管理における倫理観)などの出版物も多い。 中国において市場経済が進展し、多国籍企業の中国進出とも相俟って競争が激しくなり、中国企業も海外事業展開を図ろうとするとき、競争で勝ち残るためにも、企業の社会的責任を十分に検討する必要性が生じてきているといえる。 中国企業にとって上記の主題においてもっとも直接的な問題は、製品の品質管理に関しての企業倫理問題である。今日、非常に多くの模倣品が中国市場ばかりか外国市場にも出回っている。中国企業でISO9000シリーズを取得している企業が多いとはいえ、製品の合格率は僅か55%でしかない(1995年に政府が中国市場における商品の抜取調査を実施した結果。人民日報 1995年7月26日。直近の数字を把握していないが、模倣品販売がますます増えているところ、実態は大きくは変わっていないと考える)。 品質管理意識を高めるためにはどうすればよいのかについて、杜蘇+陳勁(浙江大学)が福州、三明、厦門の工場で行った調査がある。 この調査では、(1)現行の品質管理手法に関する問題点が指摘され、(2)如何なる品質管理手法に転換するのがよいのかについての検討がなされている。 (1)現行の品質管理手法に関する問題点として、以下の諸点が指摘されている。第一に、@現行の品質管理手法は、1980年代の経済責任制を基礎とするものが多く、これは単純な物質による刺激策であるが、これは十分に労働者の積極性および潜在能力を引出しているとはいえない。単純な物質的刺激では潜在能力の60%しか引出せていない。さらに時間給の労働者については、 その能力の20〜30%しか発揮されていないという。第二に、Aこのような物質的刺激は長続きしないという。第三に、B単純な物質的刺激は、労働者の向上心を刺激することはないという。 そうであるところ、では(2)如何なる品質管理手法に転換するのがよいのかについて、以下の提言がある。すなわち、良好な企業倫理を形成することが、品質問題を解決する上でもっとも肝要なことであるということである。杜+陳は、品質は、企業文化を具体的に反映させた結果であり、企業の価値観、企業の道徳規範、行動様式、文化観念、目標および理想の追求を労働者が認識するようになったときに真の品質管理が行われるという。このとき、企業内部の生産関係だけではなく、企業と社会・顧客との関係も意識しなければならない。 このために、企業の管理責任者は、労働者を尊重し、信用するようにせよという。人として尊重された労働者は自覚して仕事をするようになり、指導者から命令されて仕事を行う「要我干」から、自主的に主人公としての意識(主人翁意識)をもって、率先して仕事を行う「我要干」に変わるという。 某日本企業の中国法人社長は、次のように述べていた。「経営黒字に転換したときに5ヵ年の中長期計画を立てた。このことで、従業員に明確な目標ができたようである。5年後の同社の姿、発展程度が明確になったことで、技術も高度化した。技術者のジョブ・ホッピングもなくなった。……目標を持たせて会社一丸となることに関しては、日本以上のものがあるかもしれない。」目標の共有化ができる組織が、企業倫理意識を高め、品質管理を良いものにするということであろう。
次回の更新は7月12日(水)の予定です。
※サイトの記事の無断転用等を禁じます。