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LastupDate:2006/5/24
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第66回 中間層の意識:保守v.民主

(2006年5月24日)

   一般に経済発展と民主主義には相関関係があり、中間層の増加により民主化は促されるというのが発展途上国の経験である。1人当たりGNPが2,000ドルを超えた時点からが、民主化が始まる一つの目安といわれる(中村政則『経済発展と民主主義』岩波書店、1993年、168-179頁)。

   ところが、現在の中国では中間層は、対内的には金稼ぎ一辺倒で民主政治には無関心、対外的には愛国心が強く外資には排他的という意識がありそうだ。
   中国に中間層が生まれ始めたのは2000年に入ってからといえるだろうか。中国の社会学者によると、中間層とは、年間の家庭収入が最低8万元以上で、商品住宅や自家用車を購入できる層である(Jonathan Unger, China’s Conservative Middle Class, FAR EASTERN ECONOMIC REVIEW, Apr.2006, Vol.169,No3, at27)。
   この中間層を形成するのは、(1)ハイテク会社の企業家、(2)外資系企業の管理職、(3)国有金融機関の高中級管理職、(4)専門技術者、(5)私営企業経営者である(China Daily, 2004.10.27)。
   こうした中間層が、中国社会科学院の試算では、2003年に全人口の19%おり、2020年には40%になると予測する(China Daily, 2004.10.27)。
   1989年の天安門事件の当時には、中間層が民主化を進める勢力になっていたが、現在では中間層は、政府サイドになっているという。自分自身が中間層であると認識するものは、権威者を支持する母体となり、早急には今の体制が変わることや民主化が急速に進むことを望んでいない(前掲Jonathan論文, at31)。
   中国政府は、中間層が上下両層の矛盾を緩和するので、最も重要であると認識してきた。中間層は、さらに上昇志向があり、このために私営部門の地位を高め、私有財産の保護を保障する憲法改正も行っている。2004年3月の憲法改正では、憲法序文に「3つの代表」および「社会主義事業の建設者」という言葉か挿入された。「3つの代表」とは、a)先進的な社会生産力の発展の要請、b)先進的な文化の前進の方向、c)最も広範な人民の根本的利益の3点を党が代表することを2000年2月、江沢民が広東省視察時に発表したものである。そして、党を担うのが「社会主義事業の建設者」である。この社会主義事業の建設者とは、具体的に誰をいうのか。この概念には、民営科学教育企業の創業者および技術者、外資企業の管理者および技術者、個体戸、私営企業主などが含まれるとされている。また、私有財産保護に関しては、「公民の適法な私有財産は侵されない」(8条)とした。
   大学生に対するアンケート調査において、半数以上の大学生が「理想や友人をもつことよりも、お金のほうが大切である」という回答をしたという。師範大学の学生に対する別のアンケート調査では、83%の学生が「現代人はお金を稼げなければならない」という価値観をもつという結果が得られている(前掲Jonathan論文, at29)。
   中国政府は、愛国心教育にも力を注いでいる。この政策も相当の効果を挙げているといえようか。中国進出外資企業は、従来は外国ブランドで中国国内に商品を販売していたが、最近では中国独自ブランドを開発しなければ、一般消費者から嫌われるということがある。
   中国に民主がないとはいわない。しかし、東欧や東南アジアで見られたようなドラスチックな民主化がない状況下での経済発展が続くのであろうか。中国においては、下からの民主化ではなく、上からの民主化が進められていると見るべきか。「三農」問題が深刻になっている。都市部の中間層よりも、農村部で中間層が生じ始めたときに劇的な民主化が始まるのであろうか。

次回の更新は6月14日(水)の予定です。

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