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(2006年4月12日執筆)
中国は、市場経済メカニズムを適用しつつある。この中で、会社の社会的責任はどのように論じられるのか。日本同様に会社の不祥事は、中国でも後を絶たずに報道されている。 先進資本主義国において会社の不祥事が後を立たないのは、あまりにも会社が利益および経済効率を優先することにあるともいえる。このとき、如何に利益をあげるかの会社制度の設計が行われる。そして、このことが、時としてステークホルダーとしての消費者など一般市民の適法な権益の侵害につながる。そこで、このようなことのないようなコンプライアンス態勢を構築するのが、会社の社会的責任の問題である。 現在の中国の経済体制において、会社の社会的責任を確保する上での難点がある。 第一に、企業が社会そのものであるという問題である。これは、社会主義計画経済体制の名残ともいうべきものであり、国有企業改革における最大の問題でもある。中国の企業は、社会主義計画経済体制の下、多くの負担を担っていた。このときの会社は、真の意味での会社はなく、社会(国)が担うべき機能を担っていた。すなわち、企業は政府の職能部門として存在し、政府の社会保障を企業が負担、代替していたのである。このことが、会社の社会的責任という言葉が中国で着目されるようになったとき、多くの市民に誤った概念を抱かせることになっている。依然として、会社が社会保障を担うべきであるという意識を市民にもたせている。これが、国有企業改革の障害となっている。 第二に、真の社会的責任の担い手がいないということである。私営経済が活発になるにしたがって、市場経済体制が形成されつつある。しかし、同時に市場経済化の負の側面ともいうべき会社の公民意識が希薄となり、法令も不備であるために、資産の流用、劣悪商品の製造・販売、従業員の利益の侵害、環境汚染などの会社による不正行為が生じ、本来あるべき社会的責任が果たされていない。 現在、刑法改正草案において、会社・企業従業員の収賄罪を改正する規定が検討されている。現行刑法163条は、「会社または企業の従業員が職務上の便宜供与をもって他人の財物を要求し、または不法に他人の財物を収受し、他人のために利益を供与し、この金額が大きい場合には」刑事罰を科するとしている。これを改正草案では、「会社、企業またはその他の単位の従業員・職員が……」と収賄罪の適用対象者を拡大しようとしている。政府や政府関係機関が、乱収費と称される会社に対する地方政府による不当な料金徴収が存在する。こうしたことを改めなければ、会社の社会的責任も論じる基盤が確立できないとの考えからである。 中国において会社の社会的責任という言葉が着目されるようになりつつある。この意味が明らかにされ、定着するには、もう少し時間がかかりそうである。
次回の更新は4月26日(水)の予定です。
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