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LastupDate:2006/1/25
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第58回 増える労働争議への対応は?

(2006年1月25日執筆)

最近10年間で132万件の労働争議
   2005年12月上旬に上海カネボウ化粧品で労働紛争が発生していたことが伝えられた。日本経済新聞(2005年12月10日)によると、会社が財務部門の責任者を配置転換し、かつ減給処分としたところ、この処分を受けた従業員が不当であるとして上海市清安区労働争議仲裁委員会に仲裁の申立をし、同委員会が従業員の訴えを認容する判断を下したというものである。
   全国人民代表大会常務委員会の発表によると、1995年1月1日に労働法が施行されて以来、2005年末日までの10年間に中国の労働争議事件数は132万件にのぼり、関与した労働者数は443万人にのぼる。2004年の1年間だけで全国で受理された労働争議事件数は24万件余であるというから、近年の労働争議件数は異常に増加しているといえる。この労働争議のうち69.3%が仲裁により解決されており、労働者の勝訴または一部勝訴の割合が80%であるという。また、1995年1月から2005年7月の間に人民法院が審理した労働争議件数は85.6万件であった。
   労働争議が多いことは、労働法の施行により労働者の権利意識が高まったということが指摘され、これにより労働者の平均賃金の上昇、養老保険・医療保険・失業保険など社会保険制度が充実し、企業もこの制度を遵守するようになったことは労働者の権益保護にもつながりよいことではないかと評価される。しかし、一方で頻繁に労働争議が発生し、かつこの労働争議が拡大し、デモやストライキが多くなるとすれば、社会の不安も助長しかねないとも考えられる。
   そこで、このような労働争議はできるだけ企業内で解決するのが望ましいのではないかということが考えられ始めている。

新しい労働争議解決法
   河北省では2005年12月に、省の労働・社会保障庁、司法庁、総工会、社会治安綜合治理委員会弁公室、企業家協会の5部門が労働争議の調停に関する通知を発布した。この通知の内容は、従業員数が1,000人以上の企業は企業内に必ず調停専従員をおき、3,000人以上の企業の場合には調停専従員を2名おき、1,000人以下の企業の場合には兼務の調停員をおかなければならないというものである。
   上海フォルクスワーゲンは、従前から同様の制度を採用している。職場における規律違反および問題行動につき、各職場長で対処できない場合に、人事部2名、従業員代表2名、法律部代表1名の計5名で構成される「規律違反処理委員会」に問題が持ち込まれる。同社では毎年10回程度開催されているという。同委員会は原則として書面で意見を出すとのことで、この意見に不服の場合には、人事部1名、工会1名、従業員代表2名で構成される企業内の「労働争議調解委員会」に持ち込まれる。この調停によって解決されないケースは、少ないという。
   米国には、社内裁判制度というものがある。米国で社内裁判所を設置している企業は、「従業員の信頼を獲得できる効果も無視できない」(デュポン)、「公正な判断を下す作業に参加することで、従業員の責任感が増し、士気もあがる」(シグナ)と評価する(竹内規浩『国際人事管理入門』産能大学出版部、1997年、52頁)。中国も米国の制度を採り入れようとしているのであろうか。
   もう一つの新しい試みといえるのが、民間企業による労働争議調停である。北京市では、2005年12月に北京市石景山労働保障局と物美集団が民間企業としての労働争議調停センターを設立した。
   
注:本文中では労働争議と叙述しているが、これは中国語の表現で日本では労働争議というよりも労使紛争といったほうが適当であると考える。しかし、労働争議という言葉が中国の紛争処理機関の固有名詞としても使用されているので、ここでは「労働争議」という表現を用いる。

次回の更新は2月8日(水)の予定です。

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