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(2005年12月28日執筆)
今日の中国の発展目標の重要な一項目に和諧社会の構築がある(前出コラムNo.49)。中国政府は、和諧社会を構築し、社会のバランスと安定を図りたい考えである。中国の政治・法律関係者らは、社会のバランスと安定は、民主と法治が備わったものであり、これにより公平と正義を実現し、社会構成員が信義誠実に事を行えば、社会秩序も良好になり、社会の安定と団結も得られると考える。 対外開放、憲法改正などで中国人の権利意識が強まる中、紛争処理法としては訴訟が多用されるようになってきたが、今、和諧社会を実現しようとする中で、中国法学界では「調停」が着目されている。もともと調停は、東洋において「和を以って貴しとなす(以和為貴)」紛争処理意識があるところ、白黒の決着をつけずに互譲互利によって和解を図る方式として好まれていた。 調停による紛争処理を見直し、これが利用されるケースを増やそうと、法院による実践も試みられている。もともと民事訴訟手続においても審理手続過程の調停が準備されているが、これをより有効に利用しようとする試みである。 福建省泉州市では、全市法院の2003〜2004年に調停率(調停による紛争解決率。訴えの取り下げも含む。)が46.1%、2005年1〜8月には、調停率が前年同期比5.4%増えているという(http://rmfyb.chinacourt.org/public/detail.phd?id=89534)。 調停のメッリットについて、晋江市法院のYao判事は、次のようなことを述べている。 「多くの事件で判決を言い渡しても、当事者間の矛盾は解消されるよりも更に激化し、判決が出ても当事者間では実際には未解決であ(る)現象が見られる。」 そこで、単純な判決という機械的方式よりも、調停により解決を図った方が執行率も高くなるという。 Yao判事は、「茶卓調停法」という方式を発案したという。福建人はお茶を好み、お茶を飲みながら商談をし、計画を練る。Yao判事は、この茶卓をはさんだ和やかな、友達と雑談するような雰囲気の中で、当事者間の対立する感情をなくし、調停をしてはどうかと考えた。この茶卓調停法は、予想以上の効果を挙げているそうで、Yao判事いわく「多くの矛盾・紛争が、お茶を飲むのと同じようにお湯を何回も継ぎ足していくと、いつの間にかに薄くなっている。」という。 中国で調停は、司法調停、行政調停、仲裁調停、友好調停、相隣調停、家族調停、社団調停、人民調停の8種類があり、個別の紛争処理法の中で調停手続が規定されている。しかし、和諧社会を求める中で調停の効用が見直される中、「中華人民共和国調停法」の制定が検討され、司法部、学者、実務家らによる起草チームが設けられ、起草作業が進められている(http://www.ccelaws.com/int/artpage/3/art_4418.htm)。 最近、国際商事紛争処理においても調停の有効性が見直されている。実は、中国において全国レベルでは上述の福建省泉州市のデータとは異なり、調停件数が減っている。ところが白黒はっきりしたがる傾向の強い欧米で調停が増えているという興味深い現象がある。日中間の商事紛争処理に関しても、調停方式による処理を考えることがあってもいいのかも知れない。
2005年も当コラムをお読みいただきましてありがとうございました。 年内は本号が最終号となります。新年最初の更新は1月11日(水)の予定です。 ご期待ください。2006年もどうぞよろしくお願い致します。
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