コラムに関する感想
お問い合わせ
LastupDate:2006/1/11
トップチャイナウォール
コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第57回 公共利益の概念は?

(2006年1月11日執筆)

   2005年12に広東省汕尾市東洲坑村で同村に建設された風力発電所の立ち退き補償が少ないと農民がデモ集会を開いていたところ、地元警察が催涙ガス、実弾を住民に向けて発砲し、多数の死者を出したということを紹介した(本コラムNo.55, 2005年12月14日)。
   この事件に関して、広東省の張徳江・共産党省委員会書記が2005年12月23日の党全体会議で、@土地収用手続が不完全、A補償を巡る民主的な協議、合意がない、B補償が住民に届いていない事業の着工は許されず、この3条件を破って集団的な事件を誘発した場合は、解任し、処分すると幹部に警告し、指示したという(朝日新聞 2006年1月6日)。
   この事件は、日本で言えば基本的人権と公共の福祉の利益衡量の関係ということになる。中国では、公共の福祉という表現が使われることは多くなく、むしろ「公共利益」という。「公共利益」とは、中国においてどのような概念なのであろうか。中国憲法13条は、「国は、公共利益の必要のために、法律の規定に基づき公民の私有財産を剥奪し、または補償をして収用することができる。」と規定している。ここで国が公民の土地など私有財産を収用する場合には、公共利益の必要がある場合であるということになる。そこで、公共利益とは如何なる概念であるのかが問題となる。
   張千帆は、「“公共利益”とは何か?−社会功利主義の定義およびその憲法における制約」(法学論壇 2005年第1期)の中で、次のようなことを述べている。

「……公共利益が、最大多数の最大利益と考えられる場合には、公共利益と立ち退きによりもたらされる損失との比較で、利益が損失より大きい場合には公共利益であるというのが社会功利主義に適い、政府は立ち退き計画を実施することになろう。…… ……しかし、民主制度とは何かを想起した場合には、上記のように社会功利主義だけでは不適当である。功利主義は、多数による暴政をもたらすことがあるからである。John Rawlsは、「正義論」において、功利主義の原則は効率を強調し、社会の公正を無視していると批判する。それは、公共利益は個体の利益により構成されているにもかかわらず、功利主義の原則はしゅうたいが無制限に個人を圧制することを許しているからであるからである。…… ……憲法は、社会の多数の利益や意思を尊重すべきであるとはいえ、憲法の目標はすべての人の基本的利益を保障することである。したがって、多数の人を代表する議会が財産の収用することが社会公共の利益に適合するか否かを決定する権利があるとはいっても、この場合には必ず憲法の要請に基づき収用される者に公正な補償をしなければならない。憲法により、民主と自由、効率と公正、多数の利益(公共利益)と少数の権利の協調と統一を図らなければならない。」

   日本国憲法では、基本的人権の保障の中に位置づけられる財産権に関して、これが公共の福祉のために制限を受け、剥奪される場合には、財産権補償の原則が達成されなければならず、この概念には経済的損失は全体で負担すべきであるという平等原則の考え方がある。
   経済競争が激化し、勝ち組と負け組の差が拡大し、貧富の差が拡大する中、中国で平等原則が等閑にされているのではないかと心配である。最高人民法院の曹建明副院長は、1月6日の全国高級法院院長会議で、公正な司法、法による社会主義の新しい農村建設について強調した。



最高人民法院の本部ビル出入口の外壁には、最高人民法院のマークがある。
正義の女神像が手に掲げる天秤がある。

次回の更新は1月25日(水)の予定です。

※サイトの記事の無断転用等を禁じます。


© Copyright 2002-2006 OBC-China Reserved.  
"chinavi.jp" "ちゃいなび" "チャイナビ" "中国ナビ"はOBC-Chinaの商標です。