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LastupDate:2006/2/22
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第60回 民事紛争への行政の介入と公共の利益

(2006年2月22日執筆)

   中国においては、民事紛争に公権力が介入するケースが少なくない。これには、2つの類型があり、第一に、(1)行政機関が一義的に紛争処理に当たるものであり、第二に、(2)当事者が裁判所に民事訴訟を提起するか、行政機関による処理を請求するかを選択するものである。
   前者には、例えば、(1)土地管理法16条の土地所有権と使用権につき争いが生じ、当事者間の協議によっても解決できないときは、人民政府が処理するとの規定、(2)商標法41条の既登録商標に争いがある場合、商標評審委員会が判断するとの規定などである。
   後者には、例えば、(1)特許法57条の特許権侵害にかかわる紛争は、人民法院に訴えを提起するか、または特許管理部門に処理を請求することができとの規定、(2)環境保護法41条の環境汚染にかかわる賠償責任に争いが生じた場合には、環境保護主観部門が当事者の請求により処理するか、または当事者は直接に人民法院に提訴することができるとの規定などがある。
   しかし、実務上において法律に上述のような規定が明確に定められていないことが多いという。このとき行政機関が、専門性を有する問題であるとし、または公共の利益の名の下に民事紛争処理に多く介入する。行政機関に介入の裁量権があり、行政裁量権の濫用があるという。
   社会公共の利益とは、如何なる意味をもつのか。中国の法律で「公共政策」または「公共秩序」などの用語が用いられることはなく、「社会公共の利益」がこれに代替されている。実際上、「社会公共の利益」という用語は容易に議論を引き起こし、その意味するところは不明確であり、公共政策または公共秩序に比べてさらに広範な意味がある。一般的認識によれば、社会公共の利益とは一国の重大な利益、重大な社会利益、法律の基本的原則および基本的道徳規則をいう。しかし、中国の法律は「社会公共の利益」について解釈をしておらず、紛争解決にかかわる審査時の明確な指摘をしていない(本コラムNo.57「公共利益の概念は?」2006年1月11日参照)。
   公共の利益とは、極めて広範な概念であり、ここに行政が裁量的に介入する余地を多くしている。現代社会において、権力分立が確保され、法による支配が行われなければならないところ、行政が、極端に民事紛争に関与することは望ましいとはいえない。
   先進資本主義国でも独占禁止に違反する事件などの場合、民事訴訟手続外の判断がなされることがあるが、この判断をする機関は必ずしも行政機関とはいえない。行政機関からは独立し、かつ審査手続も弁論など準司法化した審判手続が行われ、必要に応じて公聴会が開かれるということもある。
   公正さの確保ということからは、行政機関による判断は、民事訴訟手続に及ばない。行政機関の観点からは、中立性の確保が難しいからである。これが行政権の濫用につながる。司法機関による解決を最終的なものとする原則の確保が必要である。

参考文献:
(1)邵明「民事糾紛之行政解決方式」人民法院報 2006年1月23日
(2)申太書「民事訴訟法第260条適用範囲探析」仲裁与法律通訊、1996年6月、第3期

次回の更新は3月8日(水)の予定です。

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