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LastupDate:2006/5/10
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第65回 改革の断層;権利保障されない農民の意識

(2006年5月10日)

   「三農」問題がクローズアップされるようになってきている。28年間の改革の中で、農村が置き去りにされているのではないかとの反省の声が聞かれるようになってきた。
   W・ヒントンは、「経済の中で私的領域が急速に拡大してゆくのと並行して、偏在的な幾層にもなった利権のシステムが出現している。そしてそれは、生産資源を握っている人間をタップリと潤し、それをもっとも多く握っている人間をもっともタップリ潤すのである。」(W・ヒントン『大逆転−ケ小平・農業政策の失敗(THE GREAT REVERSAL;The Privatization of China,1978-1989)』田口佐紀子訳、亜紀書房、1991年、214頁)と述べているが、現時点でヒントンのいうとおりの現象が生じている。当時の改革について、ある農民は「この改革で、共産党は農民から自由になれる。これからは、落ちこぼれたら、それはおまえのせいだというわけさ、畜生め!」(同前、29頁)、「考え、発言し、行動し、クソくらえ、どのみち結果はメチャクチャだ!」といっている。
   農民には都市住民と同様の権利を与えられておらず、平等な取り扱いを法的に保障されることがなかった。とりわけ以下の3点が欠陥として指摘される(張徳瑞「我国農民平等権利法律保障:回顧、反省与前膽」『河南師範大学学報』2005年5期、107-111頁)。
   第一に、政治権利の不平等である。この政治権利の不平等とは、選挙法で規定されているのだが、選挙に際しての1票の格差が、都市と農村で4:1であることである。すなわち農村人口の4人が都市住民の1人の票に等しいということである。
   第二に、経済的権利の不平等である。経済的権利の不平等とは、農民1人当たりの税額が146元であるところ、都市住民の税額は37元であり、これを農民と都市住民の実際収入で比較すると、農民は都市住民の6倍の税額を国に納めていることになる(陳桂棣+春桃『中国農民調査』人民文学出版社、2003年、150-151頁)。都市住民には年間120元の糧油補助手当と500元余の食物補助手当があるが、これは農民から徴収された税額で賄われているともいえる。
   第三に、農民の社会権利に関する規定の不平等である。例えば、青島市では地方からの労働力としての流入人口は市所属の企業従業員数の14%以内とすると定めており、外来工の雇用1人につき50元を徴収するとし、また、地元の失業者であって、女の場合は35歳以上、男の場合は40歳以上の者を6カ月以上雇用する場合には、3000元の補助金が支給されるとしている。
   もともと農民は、なかなか発言しない。お上に対して従順である。しかし、最近の農村における土地の強制収用およびその補償問題から、農民による抗議行動が発生し、しばしば政府機関と衝突していることが伝えられている。このような問題の発生から、農民の権利保障を御座なりにできなくなってきているということがいえよう。
   文頭の「三農」問題とは、一般には(1)「農業」の低生産性、(2)「農村」の荒廃、(3)「農民」の貧困の3つの問題のことをいう。最近では、「新三農」問題として、(1)農地のない農民、(2)農地を収用された農民、(3)出稼ぎ農民の問題が指摘されるようにもなっている。改革で生まれた社会構造の断層をうまくつなぎ合わせなければならない時期に入っている。

次回の更新は5月24日(水)の予定です。

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