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LastupDate:2006/8/23
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第72回 侮辱という権利侵害

――ミスコミュニケーションをなくす努力を

(2006年8月23日)

   現在審議中の労働契約法(草案)56条は、雇用単位の刑事責任について規定しているが、すでに労働法にも規定されていることのほかに、3号として「労働者を侮辱し、体罰を課し、殴打し、不法な捜査および監禁をしたとき」が加筆されている。
   労働者を侮辱すると、雇用単位は刑事罰が科せられるのである。
   侮辱とは、公然と(大勢の人の前で)人格を貶めるような表現(口頭でも文書でも)で他人を罵倒したり、または嘲弄したりする行為によって、他人の名誉感情を傷つけることをいう(中国大百科全書)。このような侮辱の定義、および犯罪としての構成要素は日本と共通であろう。罵倒や嘲弄という行為は、具体的な事実を指摘しなくても「バカヤロウ」とか「まぬけ」というだけで侮辱にあたる。
   以前、上海市の日系デパートで次のような事件が起こった。同デパートが、売り子たちに制服を支給した。日本のデパートで同じ制服と同じという触れ込みだったが、これが日本で着古されたものであることが売り子たちの耳に伝わった。売り子たちは、「このような行為は中国人を馬鹿にするものだ」として、一斉に抗議行動が起こった(梶田幸雄=園田茂人『中国投資はなぜ失敗するか』亜紀書房、1996年、227頁)。
   労働契約法が施行された後には、中国の現地法人や駐在員事務所で勤務する日本人管理者は、中国人従業員とのコミュニケーションのとり方にくれぐれも気をつけなければならなくなるということであろうか。
   労働契約法(草案)において、このように「侮辱」に対する刑事責任規定が定められたのは、単に中国進出外資系企業における労務管理上で外国人管理職による中国人従業員への対処の仕方が不適であることが多いということからだけではない。
   そもそも、今、中国においてさまざまなかたちでの名誉権侵害があり、これを規律するために憲法、民法通則、刑法、新聞雑誌管理暫定規定などでも関係規定の整備が行われているところだからである。近年、とりわけ新聞による個人に対する侮辱などの方法による権利侵害が甚だしいと問題になっている。
   新聞による侮辱を受けて名誉権が侵害されたという事件では、1985年の王発英が『女子文学』と作家の劉真を訴えた事件が典型的なものとして伝えられている。劉真は、長編連載小説「薔薇怨」の中で“ごろつき”“狂犬”“詐欺師”“著しい自己主義者”などの言葉で王発英を形容し、描写した。王発英は、河北省秦皇島市科学技術情報研究所の幹部であるが、もとの農業機械公司の統計員であったときに不正を働いたとするノンフィクションという小説であった。裁判の結果、かかる事実があったか否かは筆者の知るところではないが、王発英の名誉権が侵害されたとして、原告勝訴の判決が下されている。
   係争関係にある当事者の一方が、新聞記者を知っているところ、この知り合いの新聞記者に相手方を貶めるような記事を書いてもらうようなことがある。過去には、日本の化粧品メーカーのシャンプーを使用したところ、頭髪が抜け落ちたというクレームで、裁判で争っているときにこのような記事が掲載され、裁判で日本企業が勝訴したものの、この間の販売が減少したということがある。
   中国が誹謗中傷の不適を認識することは望ましい。日本企業は前述したとおり、中国事業を進める際の中国人とのコミュニケーションのとり方を学修するする必要がある。

次回の更新は9月14日(水)の予定です。

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