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LastupDate:2007/2/28
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第84回 外資による中国企業M&Aに警戒感

(2007年2月28日)

   外資企業による中国企業のM&Aが盛んに行われるようになってきた。これに対して、中国の民族産業が損なわれ、外資に市場が独占されることになり、国家経済の安全に危害が及ぶことにもなりかねず、外資によるM&Aに対して独占禁止の側面から規制することが焦眉の急ではないかとの意見が出始めている。
   鉄道部計画司(計画局)職員の林mは、中国経済時報(2007年2月5日)に「加強外資并購的反壟断規制」(外資による買収の反独占規制を強化せよ)と題する論評を投稿している。林mは、法学者や経済学者でもなく、外資のM&Aにかかわる実務家でもないから、ある意味で教養のある一般市民の感情を表わしているのではないかとも考えられる。
   林mは、外資による中国企業の買収は、中国経済の発展にマイナスの影響を及ぼしているという。このマイナスの影響には、(1)外資による市場独占が生じ、(2)中国の産業および経済の安全が脅かされ、(3)民族ブランド、民営経済の成長が抑制され、(4)国内企業の自主創造力を阻害することになっていると主張する。
   中国ではじめて外資企業によるM&Aが行なわれたのは、1995年にいすゞ自動車と伊藤忠が、上場会社である「北旅」の株式の25%を買取ったのが最初のケースである。北旅の経営状態は芳しくなく、いすゞ自動車と伊藤忠に資本参入してもらうことで、経営の建て直しを図りたいところであった。このとき、いすゞ自動車と伊藤忠は、買収した株式は8年内に譲渡することはしないとの約束を公表していた。ところが、北旅が赤字経営を継続していたために、株式を転売したのであった(李小寧『外資并購駛入盤山快車道』21世紀経済導報 2002年11月13日)。
   これは「北旅事件」として知られる。契約上の問題はなかったようだが、道義的な問題指摘があり、また、買収時の持分の評価方法や情報公開のあり方など多くの問題があることも指摘され、国有資産の流失防止などを考慮しなければならないとの批判もあった。
   今、外資企業による中国企業のM&Aは盛んである。あらゆる産業分野で買収方式による中国市場参入が行われようとしている。そこで、商務部、国有資産監督管理委員会、国家税務総局、国家工商行政管理総局、証券監督管理委員会および国家外国為替管理局は、「関于外国投資者并購境内企業的規定」(外国投資者の国内企業買収に関する規定)を公布した。この規定は、2006年9月8日から施行されている。
   しかし、外資のM&Aに関する周辺法は未整備である。現在起草中の「反壟断法」(独占禁止法)でも独占協議の禁止、市場における支配的地位の濫用の禁止、経営者の集中の禁止などの規制を盛り込もうとしており、また、産業政策などでも外資による市場独占が行われないような規制をしようとしている。
   企業買収には、その持分譲渡・評価方式、審査、登記制度といった買収に至る過程の手続上の問題、買収後の報告制度などの手続上の問題のほかに、買収先管理職や従業員とのマネジメント上の軋轢などの問題もある。今後も一層、外資による中国企業の買収方式による投資が増えるだろうが、なお中国には中国市場が外資に独占されないかとの警戒感が根強くあるので、注意が必要だ。


杭州訪古街。1926年に建設された建物はマクドナルドに賃貸されている。


次回は3月14日(水)の更新予定です。

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