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(2007年3月14日)
現在、北京で開かれている全人代で「物権法が」制定される見込みである。 2004年の憲法改正に伴い個人の所有権保護が強化されるようになってきていた。物権に関しては、民法5章1節「財産所有権および財産所有権にかかわる財産権」において71条から83条と僅か13か条で規定されているだけであったところ、物権法の制定により、私有財産の保護をより明確に確保する必要性が認識されていた。 物権法では、公益を目的とした国による私人の適法な財産権の収用についても厳格に制限しようとの趣旨が反映されている。公権力による私人の権利侵害を明確に禁止した。 注目されているのが、(1)農地収用に補償金を支払い、農民に社会保障費に足りる額の生活保障を与えること、(2)耕地の請負経営権期間30年の満了後も使用継続を認め、実質的に私有地化したこと、(3)農地について使用期間内には物権としての売買を認めることなど、農民に権利にかかわる規定である(日本経済新聞 2007年3月8日)。 今日の問題として国または地方政府が「社会公共の利益」を理由として、収用制度を濫用し、商業目的のために既存の私人の財産、例えば農村の集団土地所有権や農家、都市住民の土地使用権などを収用することがあり、かつ公正な補償も支払われていないということがあった。 この限りにおいて「社会公共の利益」とは、国にとって極めて都合のよい概念であったが、如何なる事由、場合であっても「社会公共の利益」といえば、私人の財産を収用できた。そうであるところ、物権法で社会公共の利益の定義が成された意味は大きい。 しかし、この物権法の制定によって、農民は憲法で保障されている市民権を獲得できるか。憲法で保障されている市民権には、参政権、教育を受ける権利、福利を享受する権利、居留権などがある。まだ、農民にこれらの権利が保障されるには至っていない。中国において、農民は市民ではなく、保障される権利も異なるようだ。農民と市民に差別が存在するのではないか。 中国の都市化率は、対外開放が始まった1979年の17.9%から、40%強にまで高まってきている。この都市化率の向上に伴い、最近では、農民にも異なる階層が生じてきている。農民工、都市近郊農村の農民、大都市近郊で農地を主要された農民、都市へ移転させられた農民、少数民族区の農民などである。 戸籍制度の改革、都市住民になった後の権利待遇改善、移転後の都市での受入れ拒絶、村民自治の問題など、解決されなければならない問題は山積する。全人代で報告された2007年度予算では、農村対策費が前年度比13.5%増の3917億元となり、インフラ建設、農業補助金、生活保障費などの充実を図るという(朝日新聞 2007年3月6日)。 中国において農民を市民として認識していないという点、農民と市民との区別の存在が気になる。三農問題は依然として未解決である。少しずつでも農民に市民権を与える改革は進むのだろうか。
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