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LastupDate:2007/3/28
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第86回 集団労働契約の法的効力
――立法政策に行政の権威維持と自由意思尊重のジレンマ

(2007年3月28日)

   社会主義市場経済化を進め、経済のグローバル化を進めるということは、立法政策からすると個人の自由・権利を保護し、もって如何に社会秩序を維持しようとするかということが重要なポイントとなる。
   しかし、行政機関や一部の立法者には、まだ契約の自由、自由意思を尊重する中で、如何に行政機関の権威維持を図るかということでジレンマ、ないしは抵抗があるようだ。
   現在、全人代常務委員会では労働契約法の立法を進め、その草案が審議されている。早ければ2007年7月にも制定され、公布される見込みである。この労働契約法においても立法政策に行政の権威維持と自由意思尊重のジレンマということがみられる。現実には、ジレンマというよりもむしろ行政規制のほうが優位であるといえる。
   例えば、集団労働契約の有効性、法的効力が問題となった次のような事例がある。
   「X社は、従業員数数百人の工場を有している。従業員代表大会で集団労働契約を起草し、労働者の衛生用具を揃えるなど労働条件を改善することなどを規定した。しかし、Xの経営者側は、出費が大きすぎるとして、この内容を衛生用具取り揃えなど労働条件改善に関する内容を削除した上で、集団労働契約を労働行政部門に送付し、同時に工場にこの契約を発表・公布した。
   労働者は、当初の草案と異なる事から不満であったが、既に労働行政部門に提出されていることもあり、X経営者と来年再考するということで合意した。
   ところが、1週間後に労働行政部門から集団労働契約は認可できず、修正せよとの通知があった。労働者が喜んだことは言うまでもない。」(左祥g『用人単位労働法操作実務』(法律出版社、2006年、124頁)
   労働契約については、「労働契約鑑証実施弁法」(1992年11月1日施行)により、労働行政部門の管理・監督を受けることになっている。
   管理・監督を受けるという意味は、企業が作成した労働契約は、必ず労働行政部門(具体的には、企業所在地の労働局)に届出て、労働契約の内容に関する適否につき審査・認可を受けなければならないということである。労働契約の内容に関する適否とは、当該労働契約が@中国法、政策に適合しているか否か、A自由平等の意思の下に締結される内容といえるか否か、B双方の権利・義務は明確であるか否かということである。
   審議中の労働契約法草案では、集団労働契約について、次のとおりの規定を作ろうとしている。
   集団労働契約は、経営者と従業員代表大会で協議一致した上で作成される(労働契約法草案50条)。そして、この集団契約は締結後に労働行政部門に報告しなければならず、労働行政部門が集団労働契約を受領した日から15日内に異議を述べないときには、集団労働契約は法的効力を有することになる(労働契約法草案51条)。
   上記の事例に関しては、従業員代表大会で起草した集団労働契約を経営側が勝手に従業員に諮ることなく修正し、労働行政部門に提出したので、経営者側に非があるといえる。
   労働契約について管理・監督をすることの立法趣旨は、上記の通りであるが、しかし、それでもなお実際には民間の契約に介入したい、行政規制しようという意識が強いといえそうである。


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