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LastupDate:2007/6/27
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第92回 仏ダノン v.娃哈哈集団の紛争処理法の有効性

(2007年6月27日)

   仏ダノンと中国娃哈哈集団有限公司の紛争がエスカレートしている。
   紛争の直接的な契機は、中国娃哈哈集団有限公司傘下の杭州娃哈哈食品飲料販売有限公司が、ダノン娃哈哈合弁会社の製品と類似した製品を「娃哈哈」という商標を不法に使用し、ダノン娃哈哈合弁会社が使っている販売会社「杭州娃哈哈食品飲料販売有限公司」を使って当該製品を販売し、ダノン娃哈哈の市場を侵害していることにある(本コラムNo.91 2007/6/13)。
   そこで、ダノンは、まず、(1)2007年5月中旬にストックホルム仲裁裁判所に仲裁の申立をした。その後、(2)6月に「中国娃哈哈集団有限公司」傘下の「恒楓貿易有限公司」と「杭州宏勝飲料有限公司」を相手取ってカリフォルニア州最高裁判所に商標権侵害にかかわる訴えを提起した。さらにこの直後、(3)中国娃哈哈集団有限公司がダノンを相手取って杭州市仲裁委員会に仲裁の申立をした。
   上述の通り、ダノンと娃哈哈集団有限公司の紛争は、(1)第三国における国際商事仲裁、(2)第三国における裁判、(3)中国における商事仲裁という3種類の紛争処理法がとられている。
   この3つの手段による紛争処理法の有効性について検討してみたい。
   第一に、(1)ダノンによるストックホルム仲裁裁判所における仲裁申立をどう評価するか。第三国である中立国における仲裁であるから、公正・公平であると評価される。そして、当該仲裁裁判所で下された仲裁判断については、中国は、「外国仲裁判断の承認および執行に関する条約」(ニューヨーク条約)に加入しているので、中国国内における承認・執行の可能性も高いといえよう。中外合弁契約の紛争処理条項において、当事者間で紛争が生じたときにはストックホルム仲裁裁判所において仲裁を行うことの合意をしているものも少なくない。ただし、日本企業の場合には、@地理的に遠く、A日中間の貿易協定により日中双方の国際商事仲裁機関で被告地主義に基づいて仲裁を行うとの取り決めもあるので、中国国際経済貿易仲裁委員会または日本商事仲裁協会において仲裁を行うという合意をしている企業の方が多い。
   第二に、(2)カリフォルニア州における裁判をどう評価するか。商標権侵害の訴えとのことであるが、具体的な内容については新聞などの報道では書かれていないので明らかではない。カリフォルニア州最高裁判所が、裁判管轄ありとして受理したことから判断すれば、ダノン娃哈哈合弁会社の商標を無断使用した製品が米国で販売されており、この販売差し止めと損害賠償の訴えかとも考える。今後の審理、判決がどうなるかは判らないが、ダノンが勝訴判決を得ても、米中間の司法共助がないので、米国における判決が中国で承認・執行される可能性は極めて少ないと考える。ダノンとしては、各種手段を講じて中国側に圧力を加えたいという効果を期待しての裁判であろうか。
   第三に、(3)中国娃哈哈集団有限公司がダノンを相手取って杭州市仲裁委員会に仲裁の申立をしたことをどう評価するか。中国には国際商事仲裁を専門的に扱う中国国際商事仲裁委員会(CIETAC)が存在し、当該委員会の北京本部または上海支部で仲裁を申し立てることも可能であるところ、中国娃哈哈集団有限公司が本社所在地の杭州で仲裁申立をしたことは、中国側に有利な地で仲裁を行いたいということである。しばしば中国の地方保護主義という問題が指摘されるところ、杭州市仲裁委員会は公正・公平な仲裁を行うことができるか否か注目したい。
   今後、ストックホルム仲裁裁判所、カリフォルニア州最高裁判所、杭州市仲裁委員会のそれぞれで判断、判決が下され(またはこの審理の過程で当事者間の調停が調ったりすることがあるのかは判らないが)、3者の判断、判決が異なり、対立するものであり、ダノンも中国娃哈哈集団有限公司もともに判断、判決を任意履行しない場合どうなるのか。それぞれの判断、判決をもって中国の法院に承認・執行の訴え、その後強制執行の訴えと推移した場合、中国の法院が如何なる判決を下すのか。
   中国における合弁事業において中国側パートナーとの紛争発生時の処理法の適否、如何にバーゲニングパワーをとるかということを考える上でも興味深い事例となりそうである。


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