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LastupDate:2007/8/22
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第96回 一部の労働者による抜打的ストも正当な争議行為か
――カルフールのレジ係りが一斉無断欠勤

(2007年8月22日)

   中国で労働争議が増えている。この労働争議の態様も多様であるが、この労働争議の手段として、抜打的争議行為(ストライキ)のようなものが多い。(1)抜打的争議行為は正当な争議行為であり違法性はないと判断されるのか。(2)中国進出外資企業は、中国における労働争議の概念、正当な争議行為手段の規定のしかたについて検討をしておく必要がありそうだ。

■事件
   2007年8月8日に北京市のカルフール双井店で、抜打的争議行為(抜打的スト)といえるような事件が発生した(北京青年報 2007年8月8日)。具体的には次のような事件であった。
   カルフール双井店には59ヵ所のレジがあるが、このうち8月8日に出勤してレジを担当していたのは僅か19人しかいなかった。レジには長蛇の列ができ、アイスクリームを買った消費者は並んで待っているうちに溶けてしまったという。レジ係のうちの多くが示し合わせて、カルフール使用者側に通知することなく突然に一斉に欠勤したのである。彼らが欠勤した理由は、月給が900元しかないことを不満として、賃上げを要求する手段としてとった行動であった。

■このような争議行為は違法ではないのか。 
   ストライキ(罷工)などの争議権について、中国憲法は労働者の権利として認める規定はない。1978年憲法においてストライキ権が規定されたことがあるが、その後、同条は削除された。そもそも中国は、「労働者階級が指導する労農同盟を基礎とした人民民主独裁」(2004年憲法前文)であり、「社会主義の建設事業は、労働者、農民および知識人に依拠し、団結しうるすべての勢力を結集しなければならない」のであるから、労使の対立などは存在するはずはなく、そうでればストライキも存在するはずもなく、従って、かかる権利を憲法に定める意義はないということなのである。
   それでもなお、今日では現実にストライキなど争議行為が多く発生している。労働者が自らの権利を主張するために争議行為を行うことは正当な手段として認められるし、この争議行為は正当な活動として法的保護が与えられる。ただ、正当な争議行為とは何か、如何なる手段であってもその正当性が認められるか否かについては議論があってもいいのではないかと考える。
   正当な争議行為として認められる行為の範囲については、日本でも議論のある問題である。上記の事件のような抜打的ストに関して、日本では、「争議行為は、通常、労使の団体交渉が行き詰まった段階でそれを打開するために行われるものであるが、ときには十分に団体交渉が尽くされない段階で、あるいは全く団体交渉を行うことなく行われることがある。問題はこのような抜打的争議行為(ストライキ)の正当性いかんであるが、判例では、労働組合の団交申し入れがなく、また、要求事項について使用者がまだ回答していない間に行われた争議行為を違法とするものと団交によって組合の要求が認められる客観的状況になかったとの認定のもとで十分に団交を尽くさない争議行為も正当性を失わないとするものが対立している。」(窪田隼人=横井芳弘編『新版現代労働法入門』法律文化社、1988年、141頁)というような議論がある。    中国では、カルフール双井店事件のような抜打的ストが現実にあるし、少なくない。ところが、このような抜打的ストを違法として使用者側が裁判で争ったケースなどは、筆者の知る限り存在しない。そうであれば正当な争議行為と解されるのであろうか。

■では、企業には、このような抜打的ストを回避する手段はないのか。
   一般に日本の場合、労働協約には争議行為の予告について規定されている。争議行為の予告とは、当事者間の協議・交渉によっても意見が一致しない場合には、事前(通常24時間前)に労働者側が使用者側に争議行為の実行について通知するというものである。これによって抜打的ストを回避している。
   中国において労働協約(集団労働契約)が締結されていることは、現時点では稀である。労働契約法の施行後は増えてくると考えるが、ただ、現行の中国関係官庁などが作成している集団労働契約のモデル書式には争議行為に関する規定などは存在しない。
   しかし、日本の労働協約に同様の規定を設けることは可能であると考える。このように考える根拠として、大連開発区企業労働争議処理暫定規定の存在が指摘できる。
   大連開発区企業労働争議処理暫定規定には、「操業停止または怠業をする場合には、必ず従業員代表を選出し、かつ、従業員代表が操業停止または怠業する72時間前までに、書面により当該企業の労働組合および当該企業の管理者側に通知しなければならない。」(12条)という定めがある。この規定は、争議行為を認めたという点で画期的であるほか、争議行為を行う場合の手続について規定した点でも注目される。

■カルフールの措置は?
   さて、カルフール双井店の副総経理は、一斉に欠勤したレジ係りに対して処罰するとか、または労働紛争処理条例によって法的処理をするというようなことはいっていない。副総経理は、彼らの主張は理解できるとし、気持(心理)の問題であると理解するからであるという。争議行為の回避ということでは、労使コミュニケーションをよくするということが、最も有効かつ肝要であるということになろうか。


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