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(2007年10月10日)
以前、上海フォルクスワーゲンでは企業内に人事部1名、工会1名、従業員代表2名で構成される「労働紛争調停委員会」を設置し、労使紛争が生じた場合には、まず始めにこの企業内労働紛争調停委員会で解決を図るようにしており、実際に社内で解決できなかったケースは非常に少ないということを紹介した(第58回、2006年1月25日)。 今では、すでに外資系企業1万7,789社、私営企業6,058社、郷鎮企業1万5,396社が集団契約制を実施し、外資系企業のうち8,865社の労働組合主席が董事会に参加あるいは列席し、1万9,000社が労働紛争調停委員会を設置している。 それでも現時点において外資系企業において上海フォルクスワーゲンのように企業労働紛争調停委員会が力量を持ち、機能しているところはあまりない。左祥gは、某地区(何れの地区かは明らかにされていない。)59の外資系企業において200名の従業員および100名の調停委員会幹部にアンケート調査およびインタビューを実施した結果、次のように述べている(左祥g『用人単位労働法操作実務』法律出版社、2006年、342-343頁)。 「当該地区で労働紛争調停委員会を組織しなければならない企業数は7,726社あるが、このうち6,910社で既に組織化されており、組織率は90%にのぼる。ただし、59の外資系企業では39社のみが組織しており、組織率は66%にとどまっている。 この39社の287人の調停人に調査を行ったところ、調停委員会には平均7.3人の調停人がいるが、外資系企業における労働紛争発生率が多いところは調停人の数が不足しているという。このために、労働紛争が発生すると企業内ですみやかに調停による解決が図れずに、止むを得ず直接に労働仲裁になるケースが多い。 調停人の素質からすると、287人のうち89人が地区労働組合の調停人のための養成訓練を受講し、資格を得た者である。 ところが実際に企業内で労働紛争が発生したときに調停が行われているかというと、実質的な調停が行われているのは40%程度しかない。」 外資系企業において従業員は、調停委員会に対する評価は高くないようである。より具体的な調停委員会の現状を把握するため左祥gは、調停業務を行っている10の調停委員会を選び調査を実施した。この10の調停委員会は、5年間に労働紛争45件を受理し、うち34件(75%)は調停による解決が図られている。調停の成功率は高いといえるが、受理件数は少ない。 現在の企業労働紛争処理条例に代わる「労働紛争調停仲裁法」が近く制定されることになりそうだが、同法草案では、「労働紛争の処理過程においては、当事者は平和的に紛争を解決しなければならず、矛盾を激化する行為をしてはならない。」(9条)という規定が見られる。労使紛争が頻発し、しかもこの紛争が激化し、社会に影響を与えるような事態になることについて中国政府として望ましいこととは考えていない。企業内の労働紛争調停委員会をうまく機能させて欲しいというのが中国政府の考えでもあるだろう。日系企業は、とりわけ企業内労働紛争調停委員会を設置しているものが少ないようである。この機に設置を検討するのも労使コミュニケーションを図るいい機会ではないかと考える。
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