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(2007年12月12日)
中国における知的所有権侵害は改善されてきているか。知的所有権保護のための法整備が進み、知的所有権保護のための組織もつくられてきているが、外国企業からすれば、なお不十分であり、いっそうの改善が待たれる。 中国は、WTO加盟、TRIPs協定に従った知的所有権に関する法整備を行っているが、まだ充分ではない。 例えば、外観設計に関する特許審査および権利付与方式、実用新案に関する検索制度、権利侵害にかかわる損害賠償額、罰金の基準など不十分である問題は少なくなく、国際ルールに基づいた法改正が必要である。 2004年には国家知的所有権工作組が設置され、2005年には国家知的所有権戦略研究工作指導小組が設置されたが、これら機関がどのような戦略や立場から活動をしているのか必ずしも明らかでない。このようにいうのは、知的所有権保護というよりは、公共政策のために知的所有権を規律していこうとの活動が多いと考えられるからである。 中国において、知的所有権に関する法律が制定されたのは、最近のことであるといっていい。国際貿易・投資体制に適った中国国内制度を整える過渡期であるともいえる。 呉漢東は、中国が、先進資本主義国並の知的所有権制度を確立するためには、以下の経済・社会環境を整える必要があるという(呉漢東「知識産権制度運作:他国経験分析与中国路径探索」中国私法網。筆者は、法大民商経済法律網http://www.ccelaws.com/int/artpage/11/art_8932.htmにアクセスした)。 第一に、特許権を中心に技術開発をし、技術成果の商業化を図り、技術の仲介サービスが行えるようにし、知的所有権(技術)保護の公共政策体系を確立する。中国において開発された技術が市場に転化される比率は10〜15%しかなく、応用技術の商業化率は7%でしかないという。 第二に、技術の自主開発のための研究資金および物質的条件を整えることである。 呉のいうような方向性は間違っていないであろうが、このときに中国政府が認識しなければならないことは、知的所有権は私権であるということである。呉の提言においても公共政策体系の確立ということがいわれている。呉のいう公共政策の概念は明らかではないが、公共政策の名の下に安易に、または恣意的に私権である知的所有権保護が制約されることがあってはならないであろう。 現時点においては、なお知的所有権保護が不十分である中国において、外国企業は如何なる対策を採ることができるのか。 第一に、特許権、商標権の申請、登録をしておくことが肝要である。 第二に、知的所有権侵害があった場合には、法的手段に訴えることが大切である。ヤマハ発動機が、中国でニセモノを製造・販売していた業者を提訴し、最高人民法院で過去最高の損害賠償額が認められた事件があった。この裁判の効果は、損害賠償を得るということよりも、知的侵害に対しては断固たる措置を講じるという姿勢を示すことによって、ヤマハ発動機の製品のニセモノの製造・販売はやめようとニセモノ業者に認識させることにある。 第三に、上記に関連して、司法プロセスをしっかりと理解し、把握し、司法判断が公平、公正に行われるかを確認することも必要である。国益、または地方益から判断がゆがめられることがあってはならないであろうし、そうである場合には中国政府にこの司法手続・判断基準の改善を求めていくことが肝要になる。
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