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(2007年11月28日)
仏ダノンと中国娃哈哈集団の商標権の帰属、競業禁止、独占禁止に関する紛争が続いている(本コラム、No.91, 2007年6月13日、およびNo.92, 2007年6月27日参照)。 商標権の帰属にかかわる紛争とは、ダノンが「娃哈哈」という商標は、ダノンと娃哈哈との合弁会社に帰属するものであると主張するのに対し、娃哈哈集団は自らが一貫して「娃哈哈」の商標の所有者である主張している問題である。 競業禁止にかかわる紛争とは、中国娃哈哈集団有限公司傘下の杭州娃哈哈食品飲料販売有限公司が、不法な手段によってダノン娃哈哈合弁会社の製品と類似した製品を合弁会社の製品の販売会社「杭州娃哈哈食品飲料販売有限公司」を使って販売し、ダノン娃哈哈の市場を侵害しているというという問題である。 また、独占禁止にかかわる紛争とは、ダノンが娃哈哈集団の販社を買収することは、独占にあたり、国家経済の安全を脅かすことになると娃哈哈集団が指摘していることである。 この紛争があまりにもマスコミに取り上げられるために、本来的には法的争いであるものが、一般市民からすれば政治的、または道徳的問題として考えられるようになりはしないかという懸念が生じ始めている。 全国工商連合会企業買収公会の王巍会長は、商取引契約の履行問題と独占禁止の問題は別の論点であって、一緒に論じることはできず、これを混同して“国家経済の安全”というような議論を持ち出し、民意を扇動するようなことがあってはならないという(経済参考報 2007年9月13日。http://jjckb.xinhuanet.com/jcsj/2007-09/13/content_66158.htm)。 国家経済の安全とは何か。明確な定義はない。外資企業による中国企業のM&Aが盛んに行われるようになってきた。これに応じて、「関于外国投資者并購境内企業的規定」(外国投資者の国内企業買収に関する規定)が公布され、2006年9月8日から施行されている。この規定においても、中国の民族産業が損なわれ、外資に市場が独占されることになり、国家経済の安全に危害が及ぶ恐れのある場合においては、商務部および国家工商行政管理総局が反独占審査をし、買収を認めるか否かを判断することが定められている。 外資による中国企業のM&Aが増えているなかで、なお中国には中国市場が外資に独占されないかとの警戒感が根強くある。外資の中国市場参入を阻みたいというときには、“国家経済の安全”という基準を適用して、外資を締め出すには都合のよい規定であるといえる。 「国家経済の安全」のためとして民意が扇動され、世論が形成されないとも限らない。2007年9月に銀川で中国弁護士シンポジウムが開催され、「ダノンv. 娃哈哈事件」についての議論が繰り広げられた。 このシンポジウムの席上、中国人民大学法学院の劉俊海教授は、中国の企業家は法律知識をもっと持ち、この重要性を認識するようにしなければならないと指摘している。 当然ながら、一般市民に対する基礎法学の教育ということも中国が市場経済を推進し、グローバル化するなかで、より重要な事項となると考える。
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