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(2008年1月9日)
2008年の中国のキーワードは、「民生」である。 最高人民法院の曹建明副院長は、2008年の裁判の着眼点は「民生」であると述べている(法制日報 2007年12月28日)。民生とは、人民の権利と社会の公平正義を保障することであり、憲法および法律で保障された人民の政治、経済、文化、社会の各種権利を保障することである。具体的には、教育、就業、住宅、収入の分配、社会保障、および医療衛生などが問題となる。そして、これらにかかわる人民の基本的かつ現実的利益を法律によって保障しようということである。 「民生」が問題となるのは、経済発展を追求するなかで、社会公徳、社会責任、職業道徳、信義誠実などの理念が等閑にされがちであり、強者と弱者の格差が生じ、社会の公平・公正さにアンバランスが生じ、社会のなかに不満も生じつつあり、調和のとれた社会の形成に不利な状況が散見されるからである。 そこで、「民生」のために多くの法律が2007年に制定・公布され、2008年に施行される。また、全人代常務委員会で現在審議中の法律もある(人民日報 2008年1月2日参照)。 既に制定・公布され、2008年内の施行が決まっている代表的な重要法律には、例えば、以下のものがある。 (1)労働契約法(2008年1月1日施行)は、固定期間のない労働契約、すなわち実質的な終身雇用制の採用を焦点としている。(2)就業促進法(2008年1月1日施行)は、失業者および就業チャンスを増やすよう企業に雇用を促し、身体障害者にも平等の就業機会が与えられるような措置を講じる。(3)労働紛争調停仲裁法(2008年5月1日施行)は、速やかに労働紛争を解決し、労働者と使用者の適法な権利を保護し、調和のとれた労働関係を促すことが目的とされている。以上の3つの法律は、労働関係を規律する3大重要法である。(4)個人所得税法(2008年3月1日改正施行)は、低所得者層の税負担を軽減し、貧富の格差を縮小し、社会の公平を調整することが目的である。現在、全従業員のうちの納税者数は、その50%程度だが、個人所得税法の改正により、納税者数は30%程度に減少すると見込まれている。 現在審議中で、2008年内に制定・公布される予定の重要法律には、例えば、以下のものがある。 (1)社会保険法(第1次草案を審議)は、社会保険基金を確かなものにし、社会保険制度を完備するものである。(2)食品安全法(第1次草案を審議)は、食品衛生および品質基準といった“安全基準”を明確に規定し、一般市民の食品に対する不安を解消しようというものである。(3)行政強制法(第2次草案を審議)は、行政機関による強制執行、例えば住宅の移転問題などで行政権限の濫用と見られる行為(“乱”)があり、または企業の廃水など環境対策の不備を放任する(“軟”)など不公平な対応があるところ、行政機関による強制執行手続、権限を明確に規定しようというものである。 2008年は「法による支配」(依法治国)が最も問われる年になる。同時に立法技術の力量が問われる年にもなる。
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