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(2008年2月27日)
商取引契約において、契約当事者は、契約の履行および/または契約に関連して紛争が生じたときの紛争解決条項を定めるのが一般的である。このとき、当事者が紛争解決方法として選択するのは、第一に、(1)当事者間の友好的協議による解決であり、第二に、(2)当事者間の友好的協議が不調の場合に法的紛争処理方法として、@仲裁またはA裁判のいずれか一つの手段により紛争の解決をしようとするものである。 ところが、実務上、法的紛争処理方法を明確に定めず、仲裁または裁判を行うという約定をしている契約書が少なくない。例えば、次のような約定である。 「甲乙双方は、契約の履行および/または契約に関連して紛争が生じた場合には、次に掲げる紛争解決方式をとることができる。 (1)管轄権のある経済契約仲裁機関に仲裁を申し立てる。 (2)管轄権のある人民法院に提訴する。」 この場合、この約定をもって果たして仲裁合意があるといえるのか否かについて争いが生じる。当事者の一方が、この紛争解決条項に基づき仲裁委員会に仲裁を申し立て、仲裁委員会がこの申立を受理し、仲裁判断を下したが、この判断に不服である一方の当事者が人民法院に仲裁合意の約定がないとして、仲裁判断の取消を求める訴えを提起するという事例が少なくない。 仲裁法は、仲裁合意には(1)仲裁事項、(2)仲裁地、(3)仲裁委員会について約定をすることを要求しており、この約定がないか不明確な場合には、仲裁合意は無効であるとしているので、実務上において上記のような訴えが生じる。最高人民法院も1996年4月18日に広東省高級人民法院に対する回答(法経[1996]110号)のなかで、仲裁と訴訟を併記した紛争解決条項は、仲裁合意として無効であると述べており、仲裁判断が取り消されているというのが現状である。 しかし、仲裁または訴訟を併記した紛争解決条項は、仲裁合意として無効であると直ちに判断することは、果たして合理的な判断といえるであろうか。 仲裁合意の本質的意義について、「当事者が仲裁による紛争解決の意向を表明することにある」と考えた場合、一概にこの種の仲裁合意を無効と解釈するのであれば、当事者が紛争を仲裁に付託する自由を排除することにもなる。これは、当事者がその約定において法院の管轄権を排除していないのに仲裁機関の管轄権は排除するものであり、この点において不合理ではないかという考えも出てくる(範瑩璞「論瑕疵仲裁協議之効力認定」北京仲裁、2007年第62輯、127頁)。 紛争解決条項において仲裁と訴訟を併記しているということは、当事者は仲裁と訴訟の両者を何れも否定しているわけではなく、2つの方式の何れかを紛争解決に用いようという意思を表明しているということであると説明できよう。 民間の契約は、当事者の自由意思に基づき行われ、当事者自治が尊重されるものである。仲裁法の条文に問題が存在するといえそうだが、当事者が契約の約定をしたときの意思を考慮することが必要であるとも考えられる。司法機関の民間契約に対する干渉ないし監督意識が強いということもある。
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