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LastupDate:2008/2/13
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第107回 多元化する矛盾と紛争解決法

(2008年2月13日)

  改革開放以降、経済・社会メカニズムが多元化している。
  中国政府は、沿海都市発展戦略という地区傾斜産業政策を行い、産業政策が多様化した。経済を担う主体である企業も国有企業ばかりではなく、私営企業、外資企業などが増え、多様化している。  
  産業政策や社会政策の多様化から、利益分配にも変化が生じた。社会の構成員の間で受益の不均衡が生じている。そこで、社会の矛盾が露呈し、これを国が必ずしもうまく調整できていないところ、国の社会構成員に対する権威やコントロール機能が弱体化し、社会矛盾が過激化、複雑化、集団化し、解決をより一層困難にしている。
  紛争の多様化ということでは、従来は、婚姻・家庭、住宅、相隣関係、債務などに関する紛争が全体の80%程度を占めていたが、今日では、国有企業再編、農村の土地収用、都市の住宅移転、環境汚染、賃金福利、労務、企業破産、合併、競売、パートナーシップ経営、不動産開発などに関する紛争が多くなっている(田成有「我国多元化矛盾糾紛解决対策研究」法大民商経済法律網http://www.ccelaws.com/int/artpage/1/art_9175.htm)。
  従来の紛争は、個々人の問題が多かったが、今日の紛争は、集団の利益にかかわる問題が多くなっているといえそうである。
  経済・社会メカニズムが多様化し、転換期にあるなかで、市民の価値観、人生観、生活観が多様化している。とりわけ個人の直接的かつ現実的利益を追求しようとする価値観ないし意識が強まっていることが、経済的・物質的利益配分の不均衡に対する反発を強め、矛盾・紛争が増え、集団化、過激化しているということがいえる。
  2007年9月26日のコラム(第98回)で労働紛争調停仲裁法の制定に向けて準備が進められていることを紹介した。労働紛争調停仲裁法(中国語は、「労働争議調解仲裁法」)は、2007年12月29日の第10期全国人民代表大会常務委員会第31回会議において採択された。そして、この法律は、2008年5月1日から施行される。
  この法では、労働紛争が生じた場合には、当事者は以下の調停機関に調停を申し立てることができるとされ(10条)、この調停機関には、@企業労働紛争調停委員会、A法により設置された基層人民調停機関、B郷鎮・街道に設置された労働紛争を調停する職能のある機関がある。この法の制定前に有効であった企業労働紛争処理条例においては、上記@のみが調停機関であったが、AおよびBにおける調停が行われるようになる。労使関係が多様化し、労働者およびその雇用形態も多様化しているところ、企業労働紛争調停委員会だけでは労働者に不利であるとの考えからであると思われ、これに対応して紛争解決方式(機関)も多様化する必要があるということのようである。
  また、仲裁による場合には、申立人である労働者から仲裁費用を徴収せず、労働紛争仲裁委員会の経費は財政が保障することになった(53条)。労働紛争における弱者は労働者であると考えられている。労働仲裁を行う場合、当然ながら交通費、各種文書の送達、鑑定、仲裁人の報酬などさまざまなコストが必要となる。しかし、この負担を弱者である労働者に課すことは酷であるとの判断からである。
  社会矛盾が過激化、複雑化、集団化し、解決をより一層困難にしているところ、今後、如何なる紛争解決メカニズムを形成していくのか。この問題は、中国の大きな課題となりつつある。


次回は2月27日(水)の更新予定です。

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