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(2008年11月12日)
中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議(3中全会)は、農村改革の発展を促すための5大原則を示した。この5大原則とは、(1)農業の基礎的地位を確固たるものにし、(2)農民の権利を間違いなく保障し、(3)農村社会の生産力を絶えず解放・発展させ、(4)都市と農村の経済社会発展を整合的に計画・調整し、(5)党が農村工作を管轄することを堅持することである。 このように3中全会で農村問題が最大の焦点となったのは、都市と農村の格差が拡大し(都市と農村の二元構造の存在)、農民の利益が守られず、農村戸籍を持ちながらも土地がなく、住宅がなく、職業もない「三無農民」といった問題など多くの矛盾が生じている現状があるからである。 このとき、都市と農村の二元構造の元凶が、農村戸籍と都市戸籍という二元的戸籍制度の存在であるとして、3中全会では戸籍制度改革について重点的に議論がされた。そして、中小都市で働く一部農民に都市戸籍を認める方針が打ち出された。 広東省深圳市では、2008年8月から一定収入のある住民には戸籍にかかわらず「居住証」を発行し、この居住証を持つ者には、就職や保険申請、福祉関係の申請について便宜が与えられる。重慶市、遼寧省、山東省、四川省など全国の10箇所余でも、戸籍にかかわらず自由な移動を認め、行政サービスを提供する動きが始まっているという(朝日新聞 2008年10月25日)。 農民の権利を守り、都市と農村の格差をなくすには、単に二元的戸籍制度を一元化し、都市住民と農民という分類をなくせばよいということではない。根本的に問題を解決するためには、都市と農村の基本的な公共サービスを平等にすることである。 そうはいっても、この問題を処理するのは容易なことではない。現時点で農民に正当な権利を付与しようという試みは、上述のとおり都市に農民工として働きに出ている農民に一部の都市住民並みのサービスを供与しようという範囲にとどまっている。しかし、今後は一律に就業、子女教育および基本的な社会保障などでの差別をなくす必要がある。農民工になったが故に「三無農民」になってしまうような問題の解決も考えられなければならない。 また、都市に出ている農民工に対してだけでなく、農村に残る農民に対しても、例えば、都市住民のみが享受している養老保障などが享受できるようにするといった改革なども必要になる。農村の一人っ子家庭には、両親に養老補助が与えられているが、戸籍が統一された場合には、このような補助はどうなるのだろうか。各地方で経済レベルが異なるところ、農民の実際収入も大きく異なり、このなかで国はどのように養老保障の基準を定めることができるのか。何れも非常に難しい問題である。 都市と農村の均等化を図るとき、農民支援政策を継続することができるか否か、継続するとすればどのような理論で支援を継続するのかも悩ましい問題である。農業生産者に対して、直接的な生産支援補助の支給も必要であろうが、この場合、農民と農業生産者が異なる概念になるのかということも気にかかる。 戸籍制度改革は、単純に都市戸籍と農村戸籍を一元化するだけでは、根本的な問題解決にはならない。さまざまな公共サービスを均等に享受できるようにし、都市と農村の収入を平等にすることが考えられなければならない。中国社会科学院農村経済研究所の党国英研究員は、農民の収入を都市住民よりも高くなるようにすることが農村改革の最終目標ではないかという(法制日報 2008年10月20日、http://news.xinhuanet.com/legal/2008-10/20/content_10221535.htm)。
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