★バックナンバー一覧
(2008年11月26日)
タクシー運転手による大規模な暴動が、2008年11月3日に重慶市で発生した(China Daily 2008年11月4日、5日)。 重慶市には1万6000の公認タクシーがあり、このうち9000のタクシーが市街区で事業をしている。このタクシー運転手の100人以上が市街に集まり、車の窓を叩き割り、パトカーを壊すなど騒ぎを起こした。通常の営業をしようとするタクシー運転手の車も彼らによって壊され、営業を妨害されるということがあるため、タクシー運転手が営業に出られずに、同日のタクシーは街からすべて消えてしまったという。 タクシー運転手が暴動に至ったのは、(1)営業コストが著しく増加し、(2)ガソリンが不足し、(3)交通罰金が異常に高いということへの不満が爆発したからである。 第一に、(1)営業コストが著しく増えているというのは、彼らに課されるノルマがきついということにある。重慶市の場合には、毎日440元を会社に上納しなければならないという。全国的にタクシー運転手は、会社と数年間の車両リース契約を締結して、さらに経営請負契約をして毎日の上納ノルマが課せられ、ガソリン代などは自己負担するという営業形態を採っている。車両リース契約も例えば3年間で数万元と新車購入に近い金額であり、この契約期間が満了すれば所有権は会社にあるので、車を返還するか高額で払下げを受けるしかないという状況にある。 第二に、(2)ガソリン不足ということでは、天然ガスの供給が不足しており、需要に追い使いないという現状がある。 第三に、(3)交通罰金に関しては、10月27日に重慶市の交通規則が改正されて以降、罰金を課す基準が著しく厳しくなり、時には不当な罰金もあるということである。例えば、座席シートを綺麗にしていないというだけで500元もの罰金を課され、ひどいときには1日に5〜6回も罰金を課せられることがあるという。ところが、ライセンスのないタクシーが多数走っているのに、警察は少しの取り締まりもしないという。 このようなことに対する不満が高じて、大きな暴動が発生したのである。この結果、上納ノルマが70元引き下げられ、天然ガス供給量も増やされる約束が市政府によってされ、ライセンスのないタクシーの不法営業の取締りもするということで、タクシー運転手は徐々に営業に戻ったという。それでもなお不満が完全になくなったわけではない。 筆者は、11月1日から5日までの間、日本学術振興会の科研費による「中国の労働紛争処理法」調査のために上海を訪問した。この際、ホテルから乗ったタクシー運転手が、乗車した途端に中国共産党に搾取されているという不満を延々と話し始めた。 「上海では毎日660元の上場ノルマだ。タクシーの数も多く、市内営業しているだけでは1回20元程度の売り上げで、これではとてもノルマを達成できないので、外人用ホテルに並んで市内から浦東国際空港に行くお客を乗せてなんとか稼いでいる。物価も高くなっており、生活は大変だ。ところが、共産党や一部の富の独裁者ばかりがのうのうと暮らしている。」という。 このタクシーに乗ったのは、重慶市の事件が報道される前日であった。この上海のタクシー運転には、重慶市の暴動の意味が切実に理解されたことであろう。
※サイトの記事の無断転用等を禁じます。