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(2008年12月10日)
労働契約法が2008年1月1日に施行されて以降、労働紛争が2倍にも3倍にも増えていることが伝えられている。ところが、労働紛争仲裁委員会に労働紛争を仲裁する資格を持った仲裁人がいないという状況があるようだ。 海口市のある家具工場の労働者が、作業中に電動ノコに親指が触れ大怪我をした。この際に経営者は、当該労働者に補償金として3000元を支払ったが、この金額が少ないとして労働者が海口市瓊山区労働紛争仲裁委員会に仲裁を申し立てた。ところが、当該仲裁委員会は、労働者の仲裁申立を受理しないという通知を交付した。仲裁申立不受理の理由は、当該仲裁委員会には、資格のある仲裁人がいないからであるという(中国労働仲裁網 http://www.chinalabor.cc/info/html/42/n-3842.html)。 労働紛争調停仲裁法(中国語は、「労働争議調解仲裁法」である。以下、「労働仲裁法」という。)が、2008年5月1日から施行されている。 労働仲裁法は、労働者と使用者との間の労働関係の確認から生じた紛争などの労働紛争を公正、速やかに解決し、当事者(労働者と使用者)の適法な権利を保護し、労働関係の調和と安定を促すことを目的に立法されたものである。 労働紛争が申し立てられると、まず調停が試みられ、調停が不調の場合には仲裁が行われる。労働調停仲裁委員会は、労働、人事の別に調停人、仲裁人名簿を設けるが、労働仲裁法は、仲裁人の資格について次のとおりの要件を規定した。すなわち、@裁判官経験者、A法学者・法教育者で中級以上の職にある者、B法律知識のある者、人材資源管理業務者、または労働組合の専業者で5年以上の経験のある者、C弁護士実務経験が3年以上の者がなる、というものである。 労働仲裁法の制定・施行以前に有効であった企業労働争議処理条例においては、仲裁人は、労働行政部門または政府関係部門の人員、労働組合専業従事者、専門家、学者および弁護士である、と規定されていた。 労働仲裁法は、従来よりもなお一層の法的判断をするために法律知識があることを仲裁人に求めたものであると考える。しかし、労働紛争仲裁委員会は、@労働行政部門の代表、A労働組合代表、B企業方面の代表により構成されるので、このなかに上記B法律知識のある者、人材資源管理業務者、または労働組合の専業者で5年以上の経験のある者はいるにしても、@、AおよびCの資格要件を備える者が現時点においているか否かというと難しい。そうであると労働紛争を処理するときに、仲裁人が不足する場合があり得るかも知れないというは想像がつく。 労働者の権利を保護することを第一の目的として立法された労働仲裁法が機能しないということがあっていいのか。 労働者の権利保護が確保されるか否か、労働者と使用者にとって調停または仲裁によって公正・公平な判断がなされるか否かは、調停・仲裁機関の独立性、および調停人・仲裁人の公平・公正性に委ねられる。上記の資格を仲裁人の要件とするよりは、今後は、(1)調停・仲裁機関の独立性の確保、(2)調停人・仲裁人の独立性の確保、および(3)上記の既存の有資格だけ頼るのではなく労働紛争専門の調停人・仲裁人を養成・教育することのほうが重要なのではないだろうか。
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