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(2009年5月27日)
中国の一般市民の間には、なお根強い民族ブランドを信奉し、保護したいという意識がありそうである。外国企業による中国企業のM&Aは勿論のこと、中国の著名ブランドに外国企業の資本が入ることにおいても、中国市民の警戒心が働く場面がある。 2009年5月4日、青島啤酒股份有限公司(青島ビール)は、アサヒビールが同社の第二の大株主になったことをプレス・リリースした。 これは、ベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)とアサヒビールとの間で、ABIが保有している青島ビールの株式27%(H株2億6200万株)のうち19.99%を6億6,700万ドルでアサヒビールに譲渡する契約が4月30日に成立したことを受けて行われた発表であった(京華時報 2009年5月5日)。 青島ビールは、1903年にドイツのビール醸造技術を導入し、現在、中国国内の市場シェア13%を有し、米国を初め海外への輸出も非常に多く、外国でも知名度のあるブランドとなっている。青島ビールの最大株主は、30.89%の株式を保有している青島ビール集団である。 ABIとアサヒビールとの間の株式譲渡契約が成立する前は、ABIが実質的に青島ビールの株式の27%を支配しており(ABIは、アンハイザー・ブッシュ(AB、バドワイザー)を買収したことによって、ABが子会社を通じて保有していた青島ビールの株式を実質的に支配することになった。)、青島ビール集団の持分と拮抗している状態で、外国企業によって青島ビールが支配されることになるのではないかという危機感が強まっていたという(人民日報日本語版、2009年2月3日)。 青島ビールのスポークスマンは、プレス・リリースに際して、「アサヒビールによる株式取得は、決して脅威とはならない。青島ビール集団が30.89%の株式を保有する筆頭株主であるから。」とわざわざ強調している。このような発言をした背景には、民族ブランドに対する世論があるからである(工人日報、2009年5月8日)。 京華時報は、「我々は決して狭隘な民族主義者ではない。日本の資本が我が国に入ってきたことに対して少しもびくつくものではない。ただ、独占禁止法の観点からは今回の株式譲渡については検討の余地があるのではないか。」「アサヒビールは、1995年には北京ビールと合作方式により北京市場に参入した。長年にわたって燕京ビールと覇を争ってきたが、負け続けていた。」「アサヒビールは、北京ビールと青島ビールという2つのブランドの関連会社として、北京市場に参入することになる。……アサヒビールが両社の株主になることで、ビール価格の変化が生じないか。ビール原料の買い付けで協力関係が出現し、燕京ビールの圧力にならないか。青島ビールの業務は全国に及んでいるので、アサヒビールが合弁工場を持つ杭州、泉州などにおいて擬似独占が生じはしないか。」「(コカ・コーラの買収計画が許可されなかった)匯泉ブランドよりも青島ビールのほうが遥かに影響力は大きい。関係部門は注意を払うべきである。」と述べている(京華時報、2009年5月8日)。 独占状態の判断基準は、独占禁止法により厳密に規定されるものである。独占禁止法に抵触しないかとの言い振りでアサヒビールの青島ビールの株式取得を問題にしているが、これは、民族ブランドを保護したいという意識があり、これを独占禁止法の名を借りて正当化しようとしているように思われるのだがどうであろうか。
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