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(2009年6月10日)
四川大地震のときに露呈した小学校校舎の手抜き工事、三鹿集団の粉ミルクへのメラミン混入事件など企業の社会的責任が問題となっているが、このとき民意は行政責任についても強く問いかけている。 現時点において行政問責にかかわる関係規定が幾つか存在し、三鹿集団の粉ミルクへのメラミン混入事件に際しては行政責任者が問責されたが、現実には有名無実であるとして、世論が反発している。 三鹿集団の粉ミルクへのメラミン混入事件もまだ記憶に新しい。三鹿集団は、粉ミルクの生産過程においてメラミンが混入されていることを知りながら、乳児の健康被害が広がり、死者がでて市民に発覚するまで生産を継続していた。企業の社会的責任が強く問われた事件である(Teresa Delaurentis, Ethical Supply Chain Management, China Business Review, May-June 2009, pp38-41)。 三鹿集団の粉ミルクへのメラミン混入事件に関しては、中央紀律検査委員会監察部が、事件の重要な責任者である品質検査総局食品生産監督司の副司長ほか数名を問責処分とした。ところが、まだ事件の記憶も新しい今、当時の品質検査総局食品生産監督司副司長は、安徽省出入境検査権益局長・党書記に就任した。同じく問責された河北省農業庁長は2009年1月に邢台市長に選任されている(新華網 http://news.xinhuanet.com/legal/2009-05/22/content_11419938.htm))。 このような事実を知った市民は、「問責制は、行政官に単に短い有給休暇を与えるだけで、少し騒ぎが収まればすぐに昇格の道を準備しているだけだ。」と義憤を覚えている。 さまざまな行政も絡む事件について、市民の知る権利が十分に確保されていないのではないか。また、市民の監督権もないのではないか。ここに行政と市民との間で大きな隔たりがある。毛寿龍(中国人民大学行政管理学研究所所長)は、「行政行為と市民の認識の間に落差が存在する。」という。問責制は、「中国共産党内部監督条例(試行)」「中国共産党規律処分条例」「党政指導幹部辞職暫定規定」「党政幹部選抜任用工作条例」「公務員法」「政府情報公開条例」などに関係規定が見られる。しかし、ここにおいては問責の主体、範囲、条件、手続および結果などについて明確な規定が存在しない。とりわけ政治責任に関しては認定については規定がない。問責も実際には、(1)行政部門内部の上下関係において行われ、(2)一部地方や機関では形式化し、(3)行政問責に対する監督メカニズムもなく、(4)上述のとおり問責を規律する法も未整備である(周漢華・中国社会科学院憲法行政法研究室主任、員傑・中国社会科学院政治学所行政管理研究室主任。出所、同前)。員は、行政問責法の制定が必要であるという。 現行の行政問責制には、民意と大きな隔たりがあるといえそうである。四川大地震のときに露呈した小学校校舎の手抜き工事に関しては、その責任の所在さえも明らかにする調査をしたくないようである。それのみならず、責任を明らかにしたいという市民を監視し、拘束するなどの事件も報じられている。今、中国に民生を大切にする施策が求められている。
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