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(2009年6月24日)
中国政府は、各級の幹部に対して、インターネットが人民大衆の民意を形成する重要な役割を果たすようになってきているので、この対応に注意すべきであると呼びかけている(新華網 2009年6月1日、http://news.xinhuanet.com/legal/2009-06/01/content_11466624.htm。原出所は『暸望』であるが、筆者はこれを所持していないので新華社網によった。)。 中国政府が、6月4日の天安門事件20周年に際して相当に厳しいインターネット情報管理をしたことは周知のとおりである。天安門事件に限らず、インターネット情報の管理に関しては、このところ相当に神経質になっている。6月19日には、グーグルの中国語サイトがポルノなどの低俗情報を提供しているとして、中国政府から海外サイトの検索サービスなどの暫時停止が命じられたことが新華社により報道された(日本経済新聞 2009年6月20日)。 しかし、体制にとっての問題の本質は、ポルノなどの低俗情報が大衆の目に触れるということにあるのではなさそうだ。インターネット情報の管理を強化したいということには、インターネット上で流される各種の情報や事件が、瞬く間に全国の大衆に広まり、“群衆性事件”となり、インターネット上で大衆による事件審理が行われるようになってしまうことにある。 例えば、以下のような事例がある。2008年11月に「温州市幹部の米国観光参加者リスト事件」があった。観光に行った幹部のリストがインターネットで流されたのであるが、100万件以上のアクセスがあり、関係した幹部らが免職されるなどの処分を受けた。また、「張家港の幹部婦人が公費で海外観光に出かけている」、「貧困県の党委員会書記が52万元の腕時計をしている」ということなどがリークされると、非常に多くの大衆がこれを目にして、党・政府幹部の違法行為を批判し、罷免を要求するということが起こる。 これに対して、地方の幹部らはこうしたインターネットで広がる群衆性事件は、「百姓の戯言」であるとしかみていないようであるが、人心の政治に対する影響を正確に認識していない態度であると、中央の体制側は感じているようである。 インターネット上の情報管理強化には、こうした体制側の意識があるのではないか。中国では毎日3,000もの新しいサイトが作られており、このうち90%以上が体制外の商業サイトであり、外資企業の影響も少なくないという(前掲新華社網)。 ワンサイド・ストーリーによる誤った情報が流され、これが群衆性事件になるとすれば、これは問題であるが、政治意識、参政意識の高まりがあるという評価もできる。 中国の専門家は、「体制側のネットは、国の政策・方針について統治しようとする立場から、これら情報を発信している。これに対して、民間のネットは、汚職・腐敗、貧富の格差、行政独占、社会保障、都市と農村の格差など大衆の直接的な関心事項について情報を発信している。このことが大衆から評価されている。党・政府は、大衆のニーズを把握し、大衆に理解される言葉で情報を発信する必要がある。」と述べている(前掲新華社網)。 体制側に適ったように情報を管理するのではなく、民意を理解した情報の発信、政策の立案が必要であるということである。
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