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(2009年7月8日)
都市と農村戸籍のいずれを持っているかで、命の価値がことなる。中国は今、不法行為法の起草作業をしているが、この法案の中で死亡事故などが発生した場合に命の価値がどのように算定されるのかについて、市民の関心が強まっている。 今、中国で死亡賠償問題が大きな関心事になっているのは、工場における事故、医療事故、交通事故など死亡に至る事故が多いからでもある。死亡事故が生じた場合、帰責者にどのような損害賠償責任を課し、どれだけの損害賠償額の負担を命じるのかが問題となる。 このとき、命の価値に軽重があるのが現状である(新華社 2009年6月29日)。 2005年に重慶市で交通事故により3人の子供が死亡するという事件が起こった。このとき、都市戸籍の子供には20万元が賠償されたのに対して、農村戸籍の子供には9万元しか賠償されなかった。 最近に発布された「広東省公安機関の2009年度道路交通事故人身損害賠償額算定基準」は、大きな波紋を呼んだ。この基準によると交通事故死亡の場合、都市戸籍の者には最大76万元賠償しなければならないと規定し、一方で農村戸籍の者には25万元としている。実に命の値段に3倍の差がつけられている。 2009年5月9日、江蘇省無錫市錫山区法院において、ある交通事故の損害賠償に関する裁判があった。この裁判において法院は、交通事故で亡くなった安徽省の農民工4人の遺族に事故責任者は240万元の賠償を支払うよう命じた。ただ、死亡した農民工は、いずれも上海市で仕事をし、生活をしていたので240万元の賠償が認定されたということである。仮に安徽省で仕事をし、生活をしているだけの農民であったら安徽省の農民の平均収入に基づく損害賠償額の算定となり、1人7万元程度しか認められなかっただろうという。 国家賠償法27条によれば、死亡事故の場合の賠償金(葬儀費用を含む。)は、国の前年度の従業員の平均賃金の20倍とすると規定されている。しかし、工傷保険条例37条は、地区別に基準を定めることを認め、各地の経済発展状況に応じて当該地区の前年度の従業員の平均賃金の48か月から60か月分とするとしている。 以上のとおり死亡事故発生時の損害賠償額において違いが存在する。命の価値が異なるということで、その公平性について多くの議論が存在している。 全国人民代表大会で不法行為法の制定に向けた議論が進められている。この議論の中で、王勝明法制工作委員会副主任は、賠償基準について年齢、収入、文化程度などの違いを考慮して算定するのがよいと述べている。 この方式によれば、そもそも戸籍により差別をしようということではないので、公平性が増していると評価されているようだ。 しかし、どうも十分に公平とは言えないのではないか。文化程度などという概念が含まれるとすれば、実質的に戸籍に代わる差別のような気もする。文化程度とは、学歴をいう場合が多いが、都市戸籍の者の方が農村戸籍の者に比べれば大学進学のチャンスが高い。同じ都市または農村でも文化程度の違いということは存在する。そうであれば、これは公平な基準を定める指標として採用することができるだろうか。 戸籍問題は、以上のような問題にも影を投げかけている。戸籍移動の自由が認められるようになるのは、いつのことか。都市化がもっと進むまで待たなければならないのだろうか。このとき、産業構造の高度化も併せて必要になる。
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