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(2009年10月14日)
前回のコラムで会社の内部統制メカニズムに関して、董事会の制度設計について述べた。この董事会の構成メンバーに関して、独立董事のあり方が随分と議論されている。そこで、今回は、独立董事について、最近の中国における議論を簡単に紹介する。 現代のコーポレート・ガバナンスにおいては、株主、董事、経営者およびその他ステークホルダー間の責任・権利・利害関係をいかに規律するかが中心的な課題となっている。このとき、独立董事の意義について言及されることが少なくない。中国においても例外ではない。 会社法、「上場会社における独立董事制度に関する指導意見」、「上場会社統治準則」などにおいて、独立董事に関する規定がある。 しかし、現実には独立董事は基本的に支配株主によって推薦、選任されおり、この独立董事は会社の経営者とも良好な関係にある。そこで、独立董事は、「人情董事」、「名目董事」、「花瓶董事」であって、実質的に機能していないといわれる。独立董事は経営者や技術分野の専門家がなっていることが多い。しかし、会社の主な業務や企業経営、技術に精通した人材が不足しているともいわれる。実務上、独立董事は一般に単なる顧問やゴム印としか認められていない。専門家といえども会社の経営や管理実務をすべて知っているわけでもなく、財務諸表等に関する知識がない者も少なくない。 さらに、上記の法規においても独立董事の権利・義務に関する明確かつ具体的な規定がなく、独立董事の賠償責任に関する条文もないなど、未整備なことが多いのも問題である。 このような独立董事であるから、会社内部の者が情報をコントロールし、独立董事には情報を教えないということになる。このためになおさら独立董事制度が、実際には会社において機能していない、会社経営におけるパフォーマンスが悪いという問題が指摘されている。 では、独立董事を機能させるにはどうすればよいのか。 第一に、(1)独立董事の職権・監督権行使の権利保障の強化である。独立董事に証券取引所や証券監督管理委員会などに訴えを提起できる権限を付与することも考えられ、証券取引所や証券監督管理委員会はこの訴えを受けて審理した結果を開示するようにすることである。また、必要であれば独立董事に裁判所への訴訟権を付与する。 第二に、(2)上記の権限を付与するには、独立董事は職権を行使するだけでなく、責任(損害賠償責任)も負わなければならないとすることが必要である。現在は、董事に対する一般的な責任規定はあるが、独立董事に関する特段の責任規定はない。独立董事も株主代表訴訟の明確な対象とさせることが必要である。責任がなければ、義務の履行を担保することも難しいだろうことは、日本の経験でも容易に想像がつく。 第三に、(3)独立董事たり得る人材の育成が必要であり、このために独立董事協会のような組織を設け、独立董事として適任である人員を登録し、独立董事名簿を作成し、企業の要請に応じて独立董事を推薦するような仕組み作りが提案されている。この協会が、独立董事の資質評価、資産評価、業務評価なども行う。ただし、あまりにも独立董事の責任が重くなるとなり手もいなくなるという恐れもあるので、独立董事という自然人の責任を法人責任に転嫁させることを考え、この協会が独立董事の損害賠償責任にあたる。このような独立董事協会を維持するために上場会社は会費を支払うようにする。 独立董事のあり方については、日本においても重要な問題である。中国における議論は、日本が社外取締役制度について考える場合の参考にもなるところがあるのではないだろうか。
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