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(2009年10月28日)
2008年の世界金融危機の中にあって、中国の内陸部都市政府が外資を誘致するために非常に好条件の優遇政策を打ち出している。中西部地区や東北地区の内陸部の政府から、日本の中堅・中小企業に対して多くの勧誘がある。 本当にこのような好条件が提供できるのだろうか。投資決定に際して注意すべき問題はないのだろうか。この点について、検討する。 中国の内陸部都市で、新たな外資誘致ブームが起こっている。内陸都市の外資誘致探勝部門は、企業所得税の減免期間の延長や土地使用権譲渡費用の引き下げ、インフラ整備費の政府負担、各種助成金の支給など、さまざまな優遇政策を提供するという。 例えば、黒竜江省寧安市がホームページ上で公表している外資誘致のための優遇政策では、生産加工型企業に対しては、行政割当方式で用地手続を行い、土地使用費は免除するとしている。また、筆者が9月に訪問した吉林省琿春辺境経済合作区は、企業所得税のうち地方財政に納入された所得税については、納税年度から起算して、2年間はその全額還付し、その後3年間は半額還付するとしている。 以上の優遇政策は、虚偽のものであるということではない。しかし、中央政府など関係者は、一部の中西部の内陸都市は、その財政力や産業連関における実力がないところ、外資を誘致し、経済発展を図りたいがために、無理な政策を打ち出していると言っている。 外資誘致のためのインフラ整備をしたり、地方財政に入った企業所得税を外資企業に還付したりすることができるだけの財政基盤がない内陸部都市もある。いつか優遇政策に行き詰ってしまった場合、この優遇政策が取り消されるということもあり得る。また、工業園区が随分と開発されているが、実際には自然保護区と隣接しているところで、工場建設が許可されない土地であったりする場合が少なくなく、現実に工場建設後に移転を迫られるということもある。 このような外資誘致ブームの背景には、中央政府がGDP8%の成長目標を必ず達成しようということとの関連がある。ある幹部は、国のGDP成長率目標が8%であるときには、県レベルの成長率目標は10%とされ、外資誘致担当部門の任務は18%の伸びを指標として与えられているという(経済参考報 2009年10月23日)。 外資の投資意欲が減退している中で、このような指標が任務として与えられるため、無理をして外資優遇政策を策定しているということがある。 このような外資誘致ブームの弊害として、(1)産業構造が不合理化し、過剰生産、重複建設という問題が生じること、(2)緩い環境基準で企業誘致をするため、周辺の環境が悪化しているということなどがある。環境悪化に外資企業には何ら問題がなくても、このことが明確に立証できない場合、共同不法行為責任が問われることもある。 外資企業としては、外資誘致の優遇政策の内容だけにとらわれることなく、十分なマーケティングを行った上で企業進出するか否かを判断するのが適当である。
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