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LastupDate:2009/12/10
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第152回 類似商標使用の厳格制限化
  ―知的所有権侵害事件発生の文化的背景

(2009年12月10日)

  最近、類似商標の使用につき、従来以上に厳格に制限する判決が中国の法院で言い渡された。
  この類似商標が商標侵害を構成するか否かが争われた。事件は、次のとおりのものであった(中国知識所有権網 http://www.ipr.gov.cn/bzpx/iprzs/jjzn/sb/gajx/577767.shtml)。
  中国で「鳳凰」ブランドの自転車は、金山公司と上海鳳凰公司が商標登録し、生産・販売しており、1991年に中国の著名商標として評価されている。
  ところが、2008年12月に上海鳳凰公司は、天津某自転車工場が「香港鳳凰」というブランドで自転車を生産・販売していることを知った。そこで、上海鳳凰公司が、「香港鳳凰」は、消費者に「上海鳳凰」をイメージさせ、商品を誤認させるものであるとして、「鳳凰」商標の使用差止めの訴えを法院に提起した。
  「香港鳳凰」は、香港で設立、登記された香港鳳凰自業有限公司が登録した商標である。天津の某自転車工場が、この商標の使用権を買い取り、生産・販売していた。
  法院は、この事実について以下のとおりの判断をした。
  香港鳳凰自業有限公司は、香港で登記された会社であり、この会社の登録商標を中国内地で使用する行為は、中国の法律に違反し、中国の経済秩序を混乱させる。知的所有権の地域性の原則により、天津某自転車工場が「香港鳳凰」という商標を中国内地で使用することは、上海鳳凰公司が先に登録した商標「鳳凰」と衝突し、これは商標侵害行為であると認定できる。従って、天津某自転車工場は「香港鳳凰」の使用を停止し、上海鳳凰公司に損害賠償として2万元を支払え。
  以前、中国企業が日本のカーメーカーと同じ名称の企業名を日本の地方都市で登記し、この実体のない日本法人から商号使用を許可されたという中国工場が、あたかも日本のカーメーカーの自動車を生産委託しているように見せかけ、中国国内で生産・販売するという事件があった。この際には、日本のカーメーカーは日本国内で登記された企業の登録抹消訴訟を日本国内で起こし、この勝訴判決をもって中国で商標侵害の訴えを提起するという時間、手間、コストをかけて商標侵害行為に対処しなければならなかった。
  今回の「鳳凰」商標侵害事件の判決からすると、著名商標を模して商品を販売する目的を持って、中国内地の外で実体のない会社、商標を登記し、この商標により中国内地で商品を生産・販売する行為は商標侵害行為として差し止められることになると考えてよいということになるだろうか。そうであれば、類似商標の使用につき、従来以上に厳格に制限する判決が中国の法院で言い渡されたものとして注目に値する。
  それにしても中国で知的所有権侵害が多いのはなぜか。
  2009年11月末に温家宝国務院総理が江蘇省のハイテク企業、研究所を訪問した際に、経済発展モデルを速やかに転換し、産業構造を調整、グレードアップするためには、知的所有権が企業の競争力を強化する上で最も重要なことであると述べている。
  ところが現実には、知的侵害事件が毎年30%以上のペースで増えている。中国の伝統的観念には、全中国の経済発展を図るためには、知的所有権は公有のものであるという意識が、まだ根強くあると指摘されることもある。また、企業が自らの利益を優先させるために違法行為を辞さないということもある。違法が摘発され罰金を支払ってもなお利益のほうが大きいという法律の不備もある。
  知的所有権制度とは、知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として保護するための制度である。知的所有権が、適切に保護がなされなければ、知的所有権が秘匿され、これを有効に活用されることがなくなり、また他者が無駄な研究、投資をすることにもなる。ひいては、産業の活性化、経済発展の遅れにもなりかねない。
  中国においては、知的所有権の産業発展、市場競争における意義についての教育ということもまだ必要であるようだ。


次回は12月24日(木)の更新予定です。

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