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(2010年1月27日)
2009年9月に河北省石家庄市中級人民法院は、フィアット上海本部にフィアットが長城汽車の商業秘密を侵害しているという起訴状を送達した。 中国の自動車メーカーが、初めて外国の自動車メーカーを訴えたケースとして、今後注目を集めそうだ。訴えまでの経緯を概観する。 長城がフィアットを訴えたのは、フィアットの産業スパイが長城の研究開発センターに立ち入り、長城が研究開発中であった初の乗用車「精灵」の写真を隠し撮りしたというものである。 このような訴訟が提起された背景には、そもそも長城とフィアットの間の2年前からのトラブルがあった。 2007年6月にフィアットは、長城が開発している「精灵」はフィアットの「パンダ」の知的財産権(外観設計)を侵害しているとして、河北省石家庄市中級人民法院に提訴した。この訴えは、同中級人民法院で棄却され、さらに上訴した河北省高級人民法院においても棄却された。しかし、フィアットはイタリアにおいても同時に関連の訴訟を提起しており、トリノ裁判所は長城がフィアットの権利を侵害していることを認容し、「精灵」のEUにおける販売を禁止する判決を下した。 この中国における裁判においてフィアットは、長城の「精灵」の写真を証拠として提出した。 この証拠写真が、今回の反訴のきっかけになった(反訴とは、係属中の訴訟手続きの中で、被告から原告に対して提起する訴えのことをいう。ここで反訴とは、このような厳密な法律用語として使っているわけではない。法的手段による対抗措置ということであり、別の訴訟である。)。長城は、フィアットがこの写真を撮るために産業スパイを長城の社員として送り込み、不法に長城の研究開発センターに立ち入り「精灵」の写真を撮ったと主張している。 裁判はまだ始まっておらず、その結果も明らかではないが、中国企業が法律という武器を積極的に利用して外資企業に対抗しようとする姿勢は、中国の他の企業も参考にすべきであると『法人雑誌』の記者は述べている。 中国の自動車産業は常に知的財産権紛争で深く困惑しており、絶えず国内の自動車メーカーが国外のブランドの権利侵害で訴えられ続けている状況であるという。これに対し、今般、長城汽車がフィアットに対して反訴を提起したことは、相当に意義のあることになるだろうというのである。 筆者も模倣品対策に関連して何回かインタビューしたことのある中国乗用車連合会の崔東樹副秘書長は、次のように述べている。「中国のメーカーは中庸の精神、おっとりとした性格である。従って、いつも国外のブランドからの訴訟に耐え忍んでいる。もっと法律を活用し、企業利益を防御する強い精神が必要である。」と。長城の反訴を強く支持しているようである。 今後、中国企業が中国進出外資企業を相手取った訴訟が増えることが想像される。中国事業において、今までとは違った法リスクが発生することになるのだろうか。中国企業からの不当な訴えがあったときの対策も検討しておく必要があるかも知れない。 (参考:http://www.legaldaily.com.cn/fycj/content/2009-12/31/content_2014179.htm?node=5984))
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