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(2010年6月9日)
中国で労働争議が多発している。この原因はさまざま挙げられるが、その中の1つに新世代の労働者の意識が変化しているという指摘がある。2010年6月1日付の工人日報は、劉瑛の署名記事「企業の伝統的管理と新世代の労働者との間のニーズの変化の矛盾を論じる」を掲載した。以下、劉の主張のポイントを紹介する。 劉は、今日、多くの労働者は労働条件に関するハード面での待遇、例えば、福利厚生、昇級、作業環境などが満足されるだけでは不十分で、企業が労働者の尊厳を認め、個性の発展および職業の発展可能性があるか否かといった企業のソフト面、職場の雰囲気に注目するようになってきているという。 なぜ、このような変化が生じてきたのか。従来の農民工は、最低限の生存権を確保したいという経済的動機により出稼ぎにきていたのだが、新世代の農民工は、都市に出稼ぎに出た父母に同行し、都市で生活し、教育を受けてきたために、農村生活、農作業の経験もない。そこで、彼らの意識に変化が生まれてきているのだという。 具体的な意識の変化とは、以下のとおりである。 (1) 生活のための就業という経済的要因が減少しつつあり、個人の成長(発展)の可能性に対する関心が高まっている。 (2) 旧世代の農民工は、教育水準も低く、農村も貧しかったので、不公正な待遇を甘受することがあったが、新世代の農民工は、教育水準も向上し、農村経済も豊かになってきているので、個人としての意識を強く持ち、自らの権利を確保することに関心が高まっている。 (3) さらに個人意識の向上が社会環境に不公正があるとの意識を強くし、この環境を変えようと、農民工が集団となって公平・権利の確保のために行動をするようになってきている。 劉は、さらに新世代の労働者(農民工だけでなく、もっと広い概念で)の就業目的とニーズの変化には、次のような時代の特徴があると指摘する。 (1) 新世代の労働者は、一人っ子であり、家庭の中で小太陽として育てられたため、自我個性が強くなっている。新世代の労働者は、活発であり、自信に満ち、進取の気質、抱負を持っているが、同時に事務的な作業に対する忍耐力がなく、自己中心的であり、企業の規則に自らを適応させようとしない。 (2) 労働条件および環境について高い要求を持っているところ、理想と現実の巨大なギャップがあり、これが彼らの生活上、心理上の圧力になっている。 (3) 勤務先企業において自らの価値の実現ができないと判断し、労働待遇・環境に不満があると、すぐに転職する。 劉の指摘が、労働争議のすべての原因ではなく、また、新世代の労働者の意識が劉の指摘のとおりであるか否かについては、若干の違和感もあり、議論もありそうな気がする。それでもなお、新世代の労働者の意識が、従来とは変わっていることは間違いない。筆者は、6月3日から6日まで北京を訪問し、労働紛争調停仲裁法に関わって中国人弁護士ほかと議論を行ったが、数人の中国人弁護士からも上述の劉と同様の問題指摘があった。中国企業における人事労務管理上、十分に留意すべき問題である。 労働集約型産業において労働争議が集中的に発生している。これは、低コスト生産を掲げる製造業のビジネスモデルにとっては、大問題である。新世代の労働者の意識変化より大きな問題として、人事労務管理に関する制度設計上の問題もあると考える。企業は、広範なセーフティー・ネットのあり方を検討する必要がある。
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