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LastupDate:2010/6/25
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第165回 ケンタッキー瀋陽の集団契約

(2010年6月25日)

  全国各地で賃上げを要求する労働者によるストライキが発生している。不当争議行為とも思えるが、このようなストライキに対する対策として、集団契約が重要視される。
  ケンタッキー瀋陽は、このほど労働組合と集団契約を締結した(工人日報 2010年6月18日)。
  ケンタッキー瀋陽の集団契約とは、どのように締結され、どのような内容であるのか。この集団契約は、現在全国で生じている労働争議対策として有効な方策として考えられ得るかについて検討する。
  ケンタッキー瀋陽は、2007年から2009年の3年間に年平均30.7%の割合で利潤を増やしていた。しかし、従業員の基本賃金は瀋陽市政府が定めている最低賃金(2009年時点で700元)でしかなかった。
  現在、中国政府は企業に対して集団契約を締結することを強く要請している。そこで、瀋陽市総工会は、2009年12月にケンタッキー瀋陽に対して、従業員と協議して集団契約を締結することを要求し、かつ従業員の基本賃金を900元とし、年平均5%の昇給を約定するようにとの要請をした。
  ケンタッキー瀋陽は、これを拒否していた。そこで、瀋陽市総工会は、2010年6月2日に「弁護士意見書」をケンタッキー瀋陽に送達し、瀋陽市常務委員会、市総工会主席ほか代表がケンタッキー瀋陽の総経理ほか管理職と集団契約の締結について協議し、その締結を強く促した。
  6月17日にケンタッキー瀋陽は、従業員代表大会を開催し、60名の従業員代表が「百勝餐飲(瀋陽)有限公司集団契約」の締結を議決した。ケンタッキー瀋陽は、中国最大のファーストフード・チェーンである百勝餐飲(瀋陽)有限公司(ヤム・ブランズ)のグループ企業の1つであり、百勝餐飲(瀋陽)有限公司は、ケンタッキーのほかにピザハットなど66店舗を有し、従業員は2300人を抱えている企業である。
  集団契約は、3章11条で「本企業は、従業員の最低賃金を900元とする」とし、15条で「従業員の平均賃金収入を年平均5%昇給させ、部門責任者以下の一般従業員の平均賃金の昇給率は5%以上とする」ことを約定している(ケンタッキー瀋陽の集団契約の全文は明らかにされていない。)。
  瀋陽市総工会は、ケンタッキー瀋陽が従業員と平等に協議し、集団契約を締結し、企業の正常な賃金成長システムを確立したことは、企業と従業員の双方にとって利益をもたらすことであると述べている。
  上記の集団契約締結に至る過程が、本当に企業と従業員が平等に協議したと言えるか否かは疑問である。瀋陽市総工会の主導によるものであるとも思える。ただし、そうであるので、この集団契約の約定に反する争議行為などを従業員もむやみにとることはできないと言えるかも知れない 2009年3月に中華全国総工会は、「“共同約定行動”をさらに一層推進することに関する意見」(以下、「“共同約定行動”意見」という。)を発布した。
  共同約定行動とは、経済が不景気であるところ、内需拡大、産業構造調整、和諧促進のために労使共同で困難に立ち向かい、就業および賃金を確保し、企業の競争力を向上させ、共に繁栄する道を探るための行動をとろうというものである。この中で集団契約の締結とその遵守が要請されている。
  集団契約の効用はあると考える。ただ、この場合には、いかなる手続きで、いかなる内容の集団契約を作成するのが適当であるのかについて十分に検討する必要がある。詳しくは、共著『中国労働契約法・労働紛争対策マニュアル(改訂版)』(PHP研究所、2008年12月)、共著『中国投資・ビジネスガイドブック』(エヌ・エヌ・エー、2009年6月)、拙稿「中国における集団労働争議と外資企業における対策」(中国研究、麗澤大学中国語学科2007年12月)を参照いただくか、またはご質問いただきたい。

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