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(2010年8月11日)
中国政府は、集団労働紛争が発生した場合、どのような解決法を望んでいるのか。10年以上前になるが、中国政府にとっての理想的な紛争解決法といえるようなモデルがある。以下、このモデルケースを紹介する。 北京市通県の中国企業とシンガポール企業の合弁会社「麦克菲精密電子工程有限公司」でストが発生した(北京市昌平県総工 会「堅持疎導的方針、旗幟鮮明的依法維護職工的合法権益:北京市麦克菲公司工会領導職工停工与老板談判始末」1997年4月11日)。 スト発生の背景は、シンガポール企業側が派遣した総経理が、労働者と労働契約、労働協約を締結せず、労働保護備品を支 給しないために労働者が業務上負傷し、かつ、中国人労働者を侮辱する行為が日常的にあったため、労資の矛盾が拡大していたことにあった。 1997年3月、労働者は労働組合に対して、集団行動をもって会社に団体交渉を迫り、これによって労働者の権利を確保するように要求した。かつ、もしこの要求を労働組合が受け入れなければ、労働者自らが行動をとるということを要求した。 会社の労働組合主席は、県総工会の支持の下、労働者の要求を受け入れ、労働組合が労働者を主導して3月19日に集団ストを行うこととした。 ストと同時に労働組合は、「全労働者に告げる書」を発表し、労働者に対してスト期間中は次のことを守るように要求した。 @ 会社の財産を損壊してはならず、損壊した場合には、損害を自ら賠償せよ。 A 労働組合の統一的な指導に従い、指定の場所に集まり、勝手な行動をしてはならない。 B ストの中止は、全労働者代表大会において討議・決定するものとし、いかなる組織または個人もこれを決定することはできない。 スト実施の数日間、労資双方は、県総工会と県労働局が同席する中で協議を行った。協議において、労働組合代表は使用者側による労働者に対する権利侵害行為を列挙し、スト中止、職場復帰の4条件を提示した。この4条件とは次のものであった。 @ 会社は、労働協約および労働契約の締結、ならびに労働保護備品支給の時期を明確に示せ。 A 会社は、現在の生産状況に相応しい賃金制度を制定せよ。 B 総経理は、労働者を侮辱した行為について、全労働者に対して謝罪せよ。 C 今般のストの原因は使用者側にある故に、スト期間中の賃金も労働者に全額支給せよ。 使用者側は労働組合が提出したすべての要求を受け入れ、ストに対する報復措置および労働者の解雇をしないことを約束し、かつ、労働協約はスト中止後1週間内に締結することを約束した。 1997年3月24日午後、労使双方はスト終結合意書を交わし、翌日、すべての労働者が職場に復帰し、操業を再開した。 以上のスト解決方式は、今日においても中国進出企業にとって参考になる方式かと考える。
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