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Last Update:2010/9/22
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第171回 賃金条例は制定されるか?

(2010年9月22日)

  現在、国務院において賃金条例(工資条例)が起草されている。(1)この賃金条例の制定の政策的背景は何か。(2)如何なる内容を規定しようとしているのか。(3)制定するための要件、課題としてどのような問題があるか。(4)条例制定の効果として何が期待できるか。以上の問題について検討する。
  (1) 政策的背景
  中国の労働報酬のGDPに占める割合は、1983年の56.5%をピークとして、以降毎年減少し、2005年には36.7%と1983年から20ポイントも比率を落としている。これに対して、1978年から2005年の間に資本報酬のGDPに占める割合は20ポイント上昇している。
  そうであるところ、ある調査によるとこの5年間に賃上げがないという労働者が23.4%おり、75.2%の労働者が現在の社会収入の分配は不公平であると感じており、61%が一般労働者の収入は低すぎると感じているという。
  中国政府は、企業が故意に賃金を低く抑えているという認識がある。このため外資系企業のみならず、内資企業においても賃上げを求めたストライキが多く発生している。
  そこで、適正に賃上げが行われるようなシステムを賃金条例により形成しようとしている。
  (2) 賃金条例の内容
  条例の草案は、一般には公表されていない。ただ、想定される内容としては、各地のCPIと連動させて適切な賃上げについてルール化しようということがある。現在、各地で最低賃金が定められているが、この賃金の概念も明確ではないという。ある地方では、残業代、冷暖房手当など各種手当までも含めて最低賃金と言っているという。全国で賃金の概念が不統一である点も、賃金条例により統一しようとしている事項の一つである。
  このほか、高額賃金をとっている政府系の独占業種企業と民間企業との格差の存在も深刻な問題である。そこで、立法担当者の発言などによると、条例の内容の核心には、「調低限高」があるという。すなわち、低所得層の賃金を引き上げると同時に、独占企業の高級管理職の賃上げを抑制するということも盛り込まれそうである。独占業種の賃金については、基準や増加率を定期的公表し、賃金、福利厚生、社会保険の補填手当などについて調整する場合には、人力資源・社会保障部や財政部門に申請し、許可を得て、かつ社会に対して公表するという方式が考えられている。
  (3) 制定に向けた要件、課題
  現時点において、年内に制定・公布されることは難しいだろうと言われている。
  第一に、@全国において賃金の概念が異なり、これで実務上運用されているのを、直ちに統一することの難しさあるのではないか。
  第二に、A基本的には全体として賃上げになることは間違いなく、このとき中小企業のコスト競争力に大きな影響があると考えられる。中小企業の減税政策などと協調させるなどの方策が検討されないと、中小企業の経営を著しく圧迫することになるという指摘もできそうである。
  第三に、B低所得の労働者の不満は、すべての企業について一律に賃上げするという方式では緩和されない。例えば、基本賃金が月1万元の独占企業を10%賃上げするとすれば、賃上げ額は1,000元である。一方、基本賃金が月2,000元の一般労働者の場合には、200元しか上がらない。実質的格差がますます増大することになるのではないかという不満がある。
  以上のほかにも少なからずの問題がある。これを如何に調整することができるのか。条例制定に向けて、今後の大きな課題である。
  (4) 条例の効果
  条例が制定され、この条例の内容が一般労働者の不満に応えられるものであれば、ストライキなどの労働争議は減少することになる。また、政府が推奨している賃金集団協議制度も採用する企業が一気に増加することになる。労使間の賃金集団協議も容易に行えるようになる。さらに、労働協約(集団契約)締結を推進することにもなるであろう。
  賃金条例の制定は、各方面にとって有用なものとなる可能性がある。ただし、上述の通り課題が存在するので、拙速に条例を制定することは避けるべきである。現時点で存在する問題に丁寧に対処し、解決して行かなければならない。


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