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Last Update:2010/12/22
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第177回 職工董事、職工監事と和諧社会の形成

(2010年12月22日)

  和諧社会(調和のとれた社会)の確立を目指す中国は、会社という組織の中で労働者をどのように位置付けようとするのか。今後の趨勢を考えてみたい。
  2010年は、労働組合(工会)の結成と団体交渉権の確立が協調された年であった。労働者の権利意識の覚醒からはじまって、中華全国総工会(労働組合の全国組織)および中国政府が、集団契約(労働協約)というかたちで労働者が団体交渉権を持てるように支援するようになった。
  このような労働者の権利保護が、新たに和諧社会を形成する手段になると考えられる。このとき、会社の機関設計という面においても変化が生じてこよう。職工董事(従業員取締役)、職工監事(従業員監査役)がコーポレート・ガバナンスの一つの手段として、さらには和諧社会形成の手段として取り入れられるようになると考える。
  では、法的側面において、職工董事、職工監事はどのような理論で根拠付けられるのか。 
  中国において、以下のとおり幾つかの学説がある。
  (1) 「主人公説」:労働者が企業の主人公であり、企業の民主管理権を有する(少数説)。
  (2) 「部分所有者説」:国有資産の最終的な所有者は全国人民であるが、直接に所有者と
  しての権利を行使することはできないので、全国人民を代表して当該企業の労働者が
  所有者としての権利を行使する(多数説)。
  (3) 「集団利益保護説」:支配株主がすべてを決定するというのでは労働者の権利が反映
  されなくなるので、労働者の集団利益を保護するために認める。
  (4)「ステークホルダー説、または人本主義説」:資本主義国においても使用者と労働者
  の権限分担とコーポレート・ガバナンスの考え方に基づき、労働者の経営参加制度が
  導入されている。労働と資本は対等な関係であると認めることは、人本主義につなが
  る。これは、労働者の主体としての地位を高め、強化するものである。
  経済がグローバル化する中で、会社法、会社の機関設計に対する考え方が政治社会体制の違いを越えて、融和し、収斂しつつあるようである。中国においてもコーポレート・ガバナンスの手段として、職工董事、職工監事制度の導入が推進されてきている。このとき、その理論的根拠として「ステークホルダー説、または人本主義説」が有力説になりつつある。このような理論付けが、中国が労働者の権利保護により、さらに和諧社会を推進しようという政策的背景に適合しそうである。
  2010年に外資企業は、労働組合の結成、団体交渉権を認める集団契約(労働協約)の締結といったプレッシャーを受けてきた。中華全国総工会および中国政府関係部門は、2012年までに外資企業を含めてすべての所有制の企業に労働組合を結成し、集団契約を締結する方針を示している。
  外資企業は、このような趨勢の中で会社の機関設計に関しては、職工董事、職工監事制度の導入についても検討をする必要があると考える。

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