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Last Update:2011/2/23
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第181回 法的正当化議論の重要性

(2011年2月23日)

  中国においては、法的正当化を議論することが、法を実現する上で大変に重要な問題となる。法的正当化を議論することは、法解釈の論理形成に直接的に関わる問題であるからである。法的正当化の問題は、諸外国においても議論されている問題であるが、中国において、とりわけ重要であると言える。
  例えば、中国会社法5条は、「会社が経営活動を行なうにあたっては、必ず法律、行政法規を遵守し、社会公徳、商業道徳を遵守し、誠実に信用を守り、政府および社会公衆の監督を受け、社会的責任を負わなければならない。」と規定している。
  この条文をめぐって、幾つかの学説がある。第一に、(1)人類思索方式変遷説である。これは、利益追求一辺倒の思考から、自然や人との調和を思考するように考え方が変遷してきたというものである。第二に、(2)人間本性矯正説である。これは、人の本性は性悪であることころ、これを防止する必要があるというものである。第三に、(3)企業維持使命説である。これは、企業維持の原則上、必然的に要求されるというものである(何倫坤「公司社会責任正当性及司法化研究」重慶文理学院学報(社会科学版)2007年第5期)。
  実務上において会社法5条に関する争いが生じた場合には、どのように判断するか。司法判断をする場合、何れの説に依拠するかによって、条文の解釈が異なり、この結果、判決が異なることがある。そもそも5条に規範的効力があるとするか否かということも議論の対象になる。
  会社法は、会社の機関設計に関して、職工董事(従業員取締役)、職工監事(従業員監査役)制度を採用されているが、この制度を理論付ける上で、(1)主人公説、(2)部分所有者説、 (3)集団利益保護説、(4)ステークホルダー説または人本主義説がある(本コラム第177回「職工董事、職工監事と和諧社会の形成」2010年12月22日)。
  このような学説を議論するのも、中国のあらゆる所有形態の会社においてこの制度を適用できるか否か、矯正することができるか否かの重要な判断基準となるからである。
  法的正当化は、特に法実証主義が主張するのとは異なって、道徳理論あるいは政治理論と原理上密接な関係を持つ(長谷川晃『解釈と法思考—リーガル・マインドの哲学のために』日本評論社、1996年、15頁)。
  しかし、人は実証主義の立場からしてもさまざまな歪みを生じる。道徳理論からしても、人間における諸本能として、模倣・敵意・喧嘩好き・怒り・同情・狩猟本能・恐怖・獲得欲・建設欲・遊戯本能・好奇心・嫉妬・親子の情愛を含めた愛情がある(William James, Principle of Psychology, 1890)ということがある。また、政治とは、権力欲という私的な契機によって個別的に担われつつ、社会を統営し、整序するという意味内実を持つ集団的な人間行為である(原田鋼『政治学原論』朝倉書店、1972年、73頁)。
  そうであるので、恣意的な判断が入り込むのである。従って、市場経済化に即し、国際化して行く過程で新たな法を制定するときに、法的正当化の議論が重要になってきている。中国法を解釈しようと場合には、中国における法的正当化の議論についても深く研究をする必要がある。

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